アフィリエイト広告を利用しています

【ネタバレあり】『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』は約4時間でもなぜ見れる?魅力や見どころを解説!ラストシーン必見

こんにちは、映画監督志望の田中です。

毎日映画を観ている田中が、映画の魅力や見どころをご紹介します!

今回紹介するのは、台湾の名匠、エドワード・ヤン監督の代表作『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』。

私も大好きな作品です。しかしこの作品、約4時間の大長編なんですね。しかも終盤まで何か大きな展開があるわけではなく、主人公や主人公を取り巻く周辺人物の生活を淡々と描いているだけなんです。

しかし、観れてしまうんです。見れてしまうどころか、何回だって観たくなる。そのくらい魅力に溢れた作品です。

淡々としている計4時間のこの映画をなぜ見れてしまうのか・・・この記事でたっぷりとお伝えします。

※ネタバレ含みます

映画概要

『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』は、エドワード・ヤンが手がけた台湾の若者たちの青春群像劇。1991年第4回東京国際映画祭で審査員特別賞受賞、ヤン監督の初の日本公開作品として92年に劇場公開されました。

1961年夏、少年がガールフレンドを殺害するという、台湾初の未成年殺人事件が起きました。その実話をもとに作られたのが本作です。

主人公を演じたのは、当時素人だったチャン・チェン。この映画には、上映時間が「188分」のものと「236分」の2バージョンが存在します。2016年第29回東京国際映画祭ワールドフォーカス部門では、デジタルリマスター版の236分バージョンがプレミア上映され、2017年には同バージョンが劇場公開となりました。

あらすじ

1960年代の台湾、台北。夜間中学校に通うスーは。不良グループ「小公園」に属するモーやズルたちとつるんでいた。スーはある日、ミンという少女に出会い恋をする。彼女は小公園のボス、ハニーのガールフレンドで、ハニーは対立するグループ「軍人村」のボスとミンを奪い合い、相手を殺して姿を消していた。ミンへ恋心を抱くスーだったが、ハニーが突然戻ってきたことからグループ同士の対立は激しさを増し、スーを巻き込んでいく…。

ざっくり感想

この作品の魅力は「若者たちの鬱屈とした日常」「時代背景からくる心細さの中毒性」「美しい映像表現」にあると思います。

1960年代台湾、若者たちの鬱屈とした日常

この作品では、1960年代台湾の鬱屈とした若者達の日常が鮮明に描かれています。土台は不良グループ「小公園」と「軍人村」の抗争で、その火種となったミンと、ミンに恋したスーを中心に群像劇として展開していきます。

劇中ではスーを取り巻く多くの台湾の若者たちが登場し、当時の時代背景と相まり、鬱屈とした雰囲気が常に流れています。夜間学校が舞台となっていることもあり、作品全体の色は薄暗く、若者たちの目にも独特の翳りがみえます。

そのため、ただ単に若者達の青春群像劇というよりは、常に「死」の香りが漂う不穏な雰囲気が流れており、それが作品の尖った魅力となっているように感じます。

この良い意味の「不穏」さが、大長編のこの作品を飽きずに見続けることができる理由の一つといえるでしょう。

不安定な政治情勢と時代背景

1940年代の終わりに、中国本土から数百万人が台湾に移住しました。1945年日中戦争終了後、中国では共産党と国民党の内戦が起こり、1949年に共産党が勝利。敗れた国民党は台湾に渡り政権を握り、このとき大勢の人々が台湾へ移住しました。国共内戦後中国から移住してきた人々を「外省人」、それ以前から台湾に住んでいた人々を「本省人」と呼ぶようになります。ヤン監督自身も1949年に中国から台湾へ住み移った「外省人」だという背景があります。

台湾はもともと、日本やオランダ、国民党などあらゆる政権によって統治が行われていました。そのため台湾人は、「自分とは何者なのか」と考えずにはいられない不安定なアイデンティティから逃れられない背景がありました。

『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』の登場人物のほとんども「外省人」です。そのため、彼らの日常生活は常に自分自身のアイデンティティの揺らぎを抱えている。

その「揺らぎ」がそのまま鬱屈とした世界観に反映されていて、観るものをどこか心細く不安定な気持ちにさせます。その「心細さ」が絶妙で、何度も浸りたくなってしまう中毒性があるのです。

淡々と見ていられる静謐で美しい映像

この作品の大きな魅力は、静謐で美しい映像表現といえるでしょう。

主人公スーが通う夜間学校の静謐で閉鎖的な描写、野原で出会うスーとミン、スーの家のモダンな家具や間取りなど、美しい映像表現が詰まっています。

登場人物が多く見分けがつきづらかったり、つかみどころのないストーリーだったりと、長尺映画として初見から受け入れやすい映画とはいえないかもしれません。しかし、このひっそりと美しい映像描写を写真集のように眺めているだけでも観る価値があると思います。特にアジア映画が好きな人や、当時の台湾の雰囲気に興味がある方には刺さるのではないでしょうか。

見どころ

この章では、『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』の見どころをご紹介します。

夜間中学ならではの薄暗く閉鎖的な世界観

主人公スーが夜間中学に通っていることもあり、夜の描写が非常に多いのも作品の見どころです。彼らの青春は夜に集約されており、その独特な閉鎖的な雰囲気はそのまま作品の魅力にも直結しているように思います。

特にスーとミンが学校終わりに一緒に帰るシーンは必見です。

この長尺な作品の中で、観賞後も特に頭から離れないのが、この夜間学校の描写です。「あれは夢だったのではないか」と思わせるような、薄暗く幻想的な非日常が味わえること間違いなしでしょう。

チャン・チェンが構築した完璧な主人公像

主人公スーを演じたのは、当時無名の素人だったチャン・チェン。彼の主人公っぷりには目を見張るものがありました。

スーが際立って目立つシーンもなく、キャラの濃い脇役たちに比べて存在感は薄いといっても良いでしょう。しかし、その「没個性」ぶりが長編映画の主人公として完璧に機能しているのです。

彼が作品世界に違和感なく溶け込んでいたからこそ、この作品が派手さはないものの染み渡るような魅力を発揮できているのではないでしょうか。

ヒロインリサ・ヤンの圧倒的な透明感

この作品で特別印象に残っているのは、ヒロインのミンを演じたリサ・ヤンの圧倒的すぎる透明感です。

ミンは、作中のメインストーリー、不良グループの抗争の原因ともなるファムファタールです。特別な美人ではないにも関わらず、彼女がファムファタールだと納得できてしまうのは、リサ・ヤンの透明感と魅力に溢れた演技に起因するのでしょう。

作品を彩るエルヴィスプレスリーの名曲

劇中には、多くのエルヴィスプレスリーの名曲が登場します。これには60年代台湾の若者たちがアメリカ文化に憧れていた背景があり、ほかにも西部劇やバスケットボール、野球バット、銃など象徴的なアイテムや要素が出てきます。

スーのエルヴィス好きの友人は「リトス・プレスリー(小猫王)」と呼ばれています。小猫王が小公園のクラブでエルヴィスを歌うシーンは大・見どころです。ぜひ小猫王の美声に酔いしれてください!

衝撃的でエモーショナルなラストシーン

この映画を語るうえで間違いなく欠かせないのでは、スーがミンを刺し殺す衝撃のラストシーンです。

私はもう数回この作品を観ているのですが、毎回このラストシーンが観たくて4時間座席に座っているといっても過言でありません。そのくらい、ラストシーンはショッキングで美しかったのです。

まず、映像としての演出が素晴らしい!ミンが倒れたあと、映像が引きになっていきます。スーの内面ではなく街に焦点が当てられていき、街の人々が徐々にその異常事態に気づき始める様は鳥肌ものです。

なぜスー(少年)はミン(少女)を殺したのか

果たして、なぜスーはミンを刺してしまったのでしょう。この理由は作中で示されてはいませんが、分かる気がするのです。

スーを演じたチャン・チェンは、「スーを演じていて、一度もミンの気持ちが分かったことはなかった」と言っています。ミンは男性を虜にする小悪魔、時には悪女のように言われることもありましたが、その実本当は誰のことも信じていなかったのではないでしょうか。真っ直ぐにミンを思うスーの純粋さは、そんなミンの複雑な心を理解することができなかった。最後まで。

美しい少年少女の相容れない心の距離が、そしてそれ故の悲しい結末が、これだけ観る人の心を締め付けるのではないでしょうか。

ラストシーンは言わずもがなの名シーンといえるでしょう。必見です!!

『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』が好きな人におすすめの映画

この章では、『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』が好きな人におすすめしたい名作を紹介します。

「エドワード・ヤン」「台湾の名匠」「台湾の青春群像劇」「台湾の若者たち」をキーワードに、下記3つをご紹介します。

青春神話

『青春神話』は、台湾映画界の期待の新人、ツァイ・ミンリャン監督の第一作です。舞台は台湾の首都、台北。一人の予備校生と周辺人物の人間関係を通し、台湾社会の抑圧された社会を描く青春群像劇。92年中時晩報電影奨最優秀作品賞、93年東京国際映画祭ヤングシネマ部門ブロンズ賞、トリノ映画祭最優秀新人監督賞受賞。

おすすめポイント

この章では、『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』にハマった人には、ぜひこの『青春神話』をおすすめしたいです。この作品は、当時(90年代)の現代台湾の若者達を描いており、こちらも同様に鬱屈としているんです。

そして現代台湾の雑多な街並みがこれでもかと描写されており、映像としてもたまらなく楽しめます。ラストシーンが近づくにつれ、段々と破滅に向かっていく若者達の生き様は、クーリンチェに通づる独特の不穏さがあり魅力的です。

ヤンヤン夏の思い出

舞台は台北。ヤンヤンは祖母と両親、姉とマンションに暮らすごく普通の少年。ところが叔父の結婚式を境にさまざまな事件が起こり始め……。

台湾の現代家族を取り巻くエピソードを同時進行させ、緻密な構成で描いていくエドワード・ヤン監督の「カップルズ」以来の家族劇。穏やかさのなかに緊迫感が同居した映像は、ヤン監督作品ならではの魅力が詰まっています。

おすすめポイント

こちらは『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』ヤン監督の家族劇です。舞台は同じく台北で、クーリンチェで描かれていた淡々とした日常のなかに垣間見える不穏さが、こちらの作品でも遺憾無く発揮されています。

この作品の見どころは、イッセー尾形さんの演技です。「太田」という、ヤンヤンの父の会社の取引先の日本人役で登場します。この太田というキャラクターがとても魅力的に描かれているので、ぜひ注目してみて欲しいです。

熱帯魚

台湾のチェン・ユーシュン監督が1995年に発表した長編デビュー作。

台北で暮らす中学生、ツーチャンは受験を控えたある日、誘拐事件に巻き込まれてしまう。主犯格の男は手下のアケンにツーチャンたちを預け身代金を取りに行くが、どの道中で交通事故に遭い命を落としてしまう。困ったアケンは家族が暮らす南部の漁村へツーチャンたちを連れていく。誘拐事件に巻き込まれてしまった少年と、誘拐犯一家の不思議な交流を描いた少しファンタジックな人間ドラマです。

第48回ロカルノ国際映画祭青豹賞、第32回金馬奨最優秀脚本賞・最優秀助演女優賞を受賞。

おすすめポイント

『熱帯魚』は、クーリンチェやほかのおすすめ映画と比べてコメディ色が強い一品です。クーリンチェを観て少し重たい気持ちになってしまった人におすすめの作品といえるでしょう。

主人公が誘拐事件に巻き込まれるという緊迫した状況と、誘拐犯一家と他愛なく平穏な日常を送っているギャップが面白い作品です。モチーフとなっている熱帯魚の描かれ方が面白く、ラストシーンはとても印象的です。

まとめ

以上、『クー嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』の魅力や見どころをお伝えしました。

こうして記事を書いてみると、いやはや、作品の魅力の半分も伝えられていないことに驚きました。この長尺の作品は、言葉で何か語ろうとすれば語るほど、本質から遠のいてしまうような不思議さがあります。

当時の台湾の時代背景を抑えてから鑑賞するのも良いですし、登場人物一人ひとりの描写に注目してみるのも良いでしょう。もちろん何も考えず、感覚的に映像を楽しむのもまた良し。

兎にも角にも、繰り返し観て欲しい名作です。ぜひまとまって時間が空いた休日に、じっくりとご覧ください!