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映画『バーニング 劇場版』の魅力を解説【ネタバレあり】

こんにちは、映画監督志望の田中です!

毎日映画を観ている私が、おすすめ映画の魅力や見どころをご紹介します。

本日ご紹介するのは、映画『バーニング 劇場版』です。

2019年公開の本作は、第71回のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、国際批評家連盟賞を受賞しています。

原作が村上春樹の短編小説ということで日本でも大きな話題になりました。

本日はこの名作の魅力をご紹介していきます。

※ネタバレ含みます

概要

『ペパーミント・キャンディ』『オアシス』の名匠イ・チャンドン監督の8年ぶりの監督作品。1983年に村上春樹が発表した短編小説『納屋を焼く』原作。物語を大胆にアレンジした、韓国の若者の闇を描くミステリードラマ。

小説家志望の青年、ジョンスは、ひょんなことから幼なじみの女性ヘミと偶然再会する。ジョンスは、ヘミがアフリカ旅行へ行く間、飼い猫の世話を頼まれることになる。旅行から戻ったヘミは、アフリカで知り合った謎めいた金持ちの男、ベンをジョンスに紹介する。ある日、ベンはヘミと共にジョンスの自宅を訪れる。そしてベンはジョンスに「時々ビニールハウスを燃やしている」という秘密を打ち明ける。そしてその日を境に、ヘミが忽然と姿を消してしまい…。

『ベテラン』のユ・アインが主演、ベンをテレビシリーズ『ウォーキング・デッド』のスティーブン・ユァン、ヘミを新人女優チョン・ジョンソが演じた。

第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品、国際批評家連盟賞受賞。

あらすじ

小説家を目指しながらバイトで生計を立てている、主人公のジョンス(ユ・アイン)。彼はある日偶然、幼馴染のヘミ(チョン・ジョンソ)と再会する。ヘミからアフリカ旅行へ行く間だけと、飼い猫の世話を頼まれたジョンス。アフリカ旅行から戻ったヘミは、アフリカで出会ったベン(スティーブン・ユァン)という謎の男をジョンスに紹介する。ある日ベンは、ヘミを連れてジョンスの家に訪れ、自分の秘密を打ち明ける。

僕は時々ビニールハウスを燃やしています」―。

その日から、ジョンスはある恐ろしい予感を感じずにはいられなくなる…。

感想

まずは作品の感想をご紹介します。

張り巡らされたメタファーと虚構性

映画『バーニング 劇場版』の大きな特徴は、張り巡らされたメタファーです。作中では、「猫」「井戸」「みかん」「ビニールハウス」など、たくさんのメタファーとして使用される言葉が出てきます。作中で登場人物が「メタファーとは何か」話しているシーンもあります。

この難解な多くのメタファーと一つひとつ紐解いていくのはなかなか難しいですが、ぜひじっくりと鑑賞しながら、どういった意味があるのか考察してほしいです。

また、この作品ではメタファーがメタファーである故に、虚構性が高い側面が多くあります。例えば「ヘミの飼い猫」、ボイル。ヘミのアフリカ旅行中、ジョンスはボイルの世話を頼まれるわけですが、ヘミの部屋でボイルが顔を出すことは一度もありません。そのため、「本当にヘミの飼い猫は存在するのか」最後まで分からないわけですね。

また、「ベンの焼いたビニールハウス」。こちらも、ベンは確かに「焼いた」と断言しましたが、ジョンスは実際に焼かれたビニールハウスを目にすることはできません。ベンの言う「ビニールハウス」が暗喩なら、焼かれたものが他にあるということになります。

このように、作中で起こることはどこかふわふわと心許なく、主人公が存在する世界のどこまでが本当か、誰の言葉を信じて良いのか分からなくなります。この、メタファーに溢れた不安定な虚構の世界こそが、『バーニング 劇場版』の大きな魅力といえるでしょう。

ジョンスとベンの比較

作中で、主人公のジョンスとベンは対照的な男性として描かれています。

大学卒業後、仕事にありつけていない小説家志望のジョンス。若くして高級マンションに住み、遊ぶように暮らしている「ギャツビー」のベン。

ジョンスにとっては別世界の人間であるベンですが、ベンはことあるごとにジョンスに会いたがり、興味を持っている素振りを見せます。ジョンスはベンの暮らしぶりを目の当たりにするたび、自分の現状と比べ引け目に感じているようです。

このジョンスとベンの比較は、分かりやすく韓国の若者における格差社会を表しているように見えます。

しかし、間にヘミという女性を挟むことで、人間関係の構造が面白く歪んでいきます。

ヘミは、アフリカ旅行中に出会った年上の紳士的な男性、ベンに惹かれているようでした。しかし一方で、ヘミが信じられるのは、幼少期井戸に落ちた自分を助けてくれたジョンスだけともこぼしているのです。そして、そのヘミの言葉を聞いたベンは、ジョンスに嫉妬の感情を抱く。しかしベンは、ヘミ自身に特別な感情を持っているとは思えません。

こういった人間模様の複雑さが、この作品をただ単に「三角関係」だとか「当て馬ジョンスの物語」と一口に言えない所以でしょう。

「ない」ことを忘れるということの意味

作中でとても印象的なセリフが、みかんを剥くパントマイムを見せたヘミの『「ない」ことを忘れる』というセリフです。

非常に難解でありながら、しかし常に胸奥で引っかかる言葉です。

では、「ない」ことを忘れるとはどういうことでしょうか。それは「ある」ことを感じることと同義なのでしょうか。

それは、「ない」と思うから「ない」のであって、そう思わなければ物体は「ない」ことにならないという意味なのでしょうか。

ヘミの飼い猫ボイルも、ジョンスが「いない」ことを忘れれば、どこかから顔を出したのでしょうか。はたまた終盤で突然消えるヘミにしても、「いない」ことを忘れさえすれば、またあっけらかんと現れてくれたのでしょうか。

登場人物のトリッキーなセリフに振り回される心地良さを、ぜひ味わっていただけたらと思います。

見どころ

次に、映画『バーニング 劇場版』の魅力を深掘りしていきましょう。

空っぽなベンの人物描写

作中で印象深いのは、ベンという人物の空っぽな人物描写です。都会の高級マンションで悠々自適な暮らしをしているベンは、物腰柔らかく非常に紳士的です。しかし、誰と話していても、どこか空虚な、乾いた目をしているのが興味深いポイントです。

日常に退屈し、何かに諦めている。そんなどこか危うい雰囲気が漂っているんですね。そのため、作中でベンを観ていると、どうしようもなく不安な気持ちになるのです。

ラストシーンでジョンスに殺されたベンは、ジョンスを抱きしめます。ここの行動の意味は分かりませんが、ベンはジョンスに殺されるのを待っていたようにも感じます。それならば、ベンがなぜジョンスに興味を持っていたのか、説明がつく気もします。

夕暮れの中で自由に舞うヘミ

作中屈指の名シーンは、夕暮れの空、大麻を吸ったヘミが裸で踊る場面でしょう。

劇中、ヘミは天真爛漫でありながら、どこか影のある女性として描写されています。このシーンでも、ヘミの表情から、周囲にはわかってもらえない孤独や苦しみが滲み出ているように感じました。

一見自由を手にしているように見えるヘミでも、常に何かに縛られている。100パーセントその時を楽しめていない。これはヘミの手相を見たベンが口にしていることでもありますね。

『バーニング 劇場版』が楽しめる人の特徴

映画『バーニング 劇場版』が楽しめる人の主な特徴は、下記のとおりです。

  • 村上春樹作品が好き
  • ミステリーやサスペンス要素のある映画が好き
  • 韓国の若者文化に興味がある
  • 淡々と進む静かな映画が好き
  • コメディよりシリアス寄りの映画が好き
  • 一人でゆっくり映画が観たい

『バーニング 劇場版』が好きな人におすすめの映画

次に、映画『バーニング 劇場版』が好きな人におすすめの映画をご紹介します。ぜひ併せてチェックしてみてください!

ドライブ・マイ・カー

村上春樹の短編小説集『女のいない男たち』内に収録された短編「ドライブ・マイ・カー」を、『偶然と想像』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した濱口竜介監督により映画化した作品。

主人公の家福を西島秀俊、ヒロインであるみさきを三浦透子、家福と因縁のある俳優高槻役を岡田将生、家福の亡き妻、音を霧島れいかが演じる。

本作は2021年の第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。そして、日本映画で初となる脚本賞を受賞したほか、国際映画批評家連盟賞やAFCAE賞、エキュメニカル審査員賞といった3つの独立賞も受賞する。また、2022年の第94回アカデミー賞では日本映画史上初の作品賞にノミネートされた。ほか、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞とあわせ4部門でノミネートする。日本映画としては『おくりびと 』以来の13年ぶりになる国際長編映画賞(旧外国語映画賞)を受賞。そのほか、第79回ゴールデングローブ賞最優秀非英語映画賞受賞、アジア人男性初となる全米批評家協会賞主演男優賞受賞など、全米の各映画賞でも注目を集めた。日本アカデミー賞では最優秀作品賞はじめ、計8冠に輝く。

おすすめポイント

『ドライブ・マイ・カー』は、『バーニング 劇場版』同様に村上春樹原作の実写映画化作品です。

2021年にカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、日本アカデミー賞では最優秀作品賞をはじめとした計8冠に輝いています。

この作品は、村上春樹作品の空気感を残したまま、独自の解釈で作品の幅を広げた映画としても評価されています。「自己回復」をテーマにした本作は、自分の心と向き合うこと、人間関係でしっかり傷つくことの大切さを教えてくれる作品です。

『バーニング 劇場版』を併せて鑑賞すると、より楽しめるのではないでしょうか。

オアシス

『ペパーミント・キャンディー』で注目を浴び、『バーニング 劇場版』で名匠としての不動の地位を確立したイ・チャンドン監督の手がける恋愛ドラマ。社会に適応することができない前科持ちの青年と脳性麻痺の女性の愛を描き、第59回ベネチア国際映画祭で監督賞等を受賞。『ペパーミント・キャンディー』で共演したソル・ギョングとムン・ソリが、主人公ジョンドゥとコンジュをそれぞれ演じ再共演。2019年3月『バーニング 劇場版』公開にあわせ、HDデジタルリマスター版が日本で初公開された。

暴行、強姦未遂に続き、ひき逃げ死亡事故で2年6ヶ月の間服役していたジョンドゥは、刑を終え出所したばかり。家族の元へ戻るジョンドゥだったが、これまで積み重なった素行の悪さから迷惑がられてしまう。ある日、ジョンドゥはひき逃げで死なせてしまった被害者家族のアパートを訪れる。そこで彼は、寂しげな部屋に取り残された被害者の娘、コンジュと出会う。重度の脳性麻痺である彼女は、部屋の中で孤独な空想世界に生きていた。ジョンドゥとコンジュは互いに惹かれ合い、純粋な愛を育んでいくが……。

おすすめポイント

本作は、『バーニング 劇場版』を手がけたイ・チャンドン監督の恋愛ドラマです。

前科持ちのジョンドゥと、脳性麻痺のコンジュが心を通わせ、周囲に引き裂かれるまでを描いたストーリーです。シリアスな場面が多いですが、一恋愛ドラマとして括れないほど、ヒューマンドラマとしても名作といえる作品。2000年初頭の韓国の街並みや若者の雰囲気を感じ取れる映画でもあります。

ペパーミントキャンディ

韓国現代史を背景に、1人の男性の20年間を描いた人間ドラマ。韓国のアカデミー賞と呼ばれる「大鐘賞映画祭」で作品賞など主要5部門受賞。『オアシス』『シークレット・サンシャイン』のイ・チャンドン監督が手がけた長編第2作です。

1999年の春。仕事も家族も失い、絶望の淵にいるキム・ヨンホ。彼は旧友たちとのピクニックに、場違いなスーツ姿で現れる。そこは、20年前初恋の女性、スニムと訪れた場所であった。線路の上に立ったヨンホは、向かってくる電車に「帰りたい!」と叫ぶ。すると彼の人生が巻き戻されていく…。自らを崩壊させた妻、ホンジャとの生活。惹かれ合いながらも、結局結ばれることはなかったスニムへの愛。兵士として遭遇した光州事件。最後にヨンホの記憶の旅は、人生が最も美しく純粋だった20年前にたどり着く…。

2019年3月、『バーニング 劇場版』公開にあわせ、4Kレストア・デジタルリマスター版が日本で初公開された。

おすすめポイント

『バーニング』『オアシス』と同様、イ・チャンドン監督の人間ドラマです。出演者も、『オアシス』と同様ソル・ギョングとムン・ソリということで、また『オアシス』とは違った二人の演技を楽しめます。

この作品は、仕事も家族も失った絶望の最中にいるヨンホが、自身にとって一番美しく純粋だった20年前に帰りたいと願い、記憶の旅に出るというストーリー。ヨンホの現状の悲惨さと、20年前の初々しい純粋さの対比が残酷な本作。もう戻らない過去への恋焦がれた経験は、誰にでもあるでしょう。そして現実を受け止め、過去を過去と認めて諦めることは、非常に勇気がいることかもしれません。それでも私たちは、常に「現在」しか生きられない。だから、どんなに惨めでも辛くても、現在を生きていくことでしか過去の憧憬を消すことはできない。

「人生とは」という普遍的なテーマについて考えさせる壮大な作品です。

まとめ

以上、映画『バーニング 劇場版』の感想や見どころをご紹介しました。

張り巡らされたメタファー。トリッキーな人物たちの意味深なセリフ。突然姿を消すヒロイン。どこか空虚な恋敵。一つとして確かなものがなく、目の前で起こっていることが現実なのか、幻なのかも分からない。

まるで狐につままれたような感覚になるのが、本作の大きな魅力です。

ぜひ「難解」という言葉で済まさず、登場人物たちに振り回される心地良さを味わってみてください。

ここまでお読みいただきありがとうございました!