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『博士の異常な愛情』解説
正式名称『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(Dr.Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb)
好きな映画をただただ紹介していくシリーズです。今回はスタンリー・キューブリック監督作品を紹介しようと思います。
といっても、今回の記事はほぼ全てネタバレです。この作品を観た時に、自分が思った感想と見解を書きたいだけなのです。まだ観たことないという人は、読まない方が良さそうですね。
この映画はこんな人にオススメです。
第二次世界大戦後のアメリカとソ連の関係、及び戦時中のナチスドイツについての予備知識があり、ブラックユーモアや皮肉(アイロニー)が好きな人。そんな人はこの映画が好きになるかもしれません。
気になった方は、この記事をそっ閉じして一度DVDでご覧になってみてはいかがでしょうか。
この映画は1963年制作、1964年に公開されたアメリカ・イギリス合作です。キューブリック監督最後の白黒映画です。
監督:スタンリー・キューブリック
出演:ピーター・セラーズ(ストレンジラヴ博士、ライオネル・マンドレーク大佐、マーキン・フリー大統領)、スターリング・ヘイドン(ジャック・D・リッパ―准将)、ジョージ・C・スコット(バック・ダージドソン将軍)
なんと、この作品はピーター・セラーズが一人三役を演じています。
まずは、あらすじから。
あらすじ
ある日、米空軍のマンドレーク大佐にリッパ―将軍から1本の電話が入ります。そして、マンドリーク大佐にある命令が下ります。
その命令とは、全部隊に対してR作戦を発令するというものでした。
核兵器を搭載したB52は「FGD135」の通信暗号を受信します。それはR作戦を意味する暗号です。突然の命令に驚く機内の空軍兵たちであったが、祖国のためとR作戦を遂行することになります。
そのR作戦というは、ソ連の基地に対して核兵器による総攻撃を行うというものでした。R作戦が発動されるということは、アメリカ本国が攻撃を受けていることを意味します。攻撃に対する反撃・報復がR作戦なのです。
しかし、アメリカ本国が攻撃された様子はなく、レーダーに敵機も派遣されてもいませんでした。敵の謀略を未然に防ぐという理由で、作戦本部ではラジオが全て押収され、ソ連に向かう戦闘機は暗号のない通信はすべて受信できないようになっています。その暗号を知るのは、リッパ―将軍ただ一人なのです。
作戦本部のマンドレーク大佐はたまたまラジオで放送を聴いてしまいます。そう、ラジオ放送はいつもと同じ日常的な放送が流れているだけなのです。そう、アメリカ本国はソ連から攻撃を受けたわけではなかったのです。それにもかかわらず、リッパ―将軍によってR作戦が発令されました。これは、リッパ―将軍による独断の命令。リッパ―将軍は異常なほど共産主義を嫌い、ソ連と戦争を起こそうとするのです。
解説
この映画が制作されたのが1963年。当時の米ソは冷戦の真っただ中でした。米ソの戦争が現実になりかけたキューバ危機があったのが1962年。米国内が非常に緊迫した状況でした。
この頃、核兵器開発で米ソは競い合いっています。世界を破滅に陥れるほどの核兵器を保有する両国。もし実際に米ソ間で戦争が起きていたら、この映画のように人類滅亡は現実のものになっていたかもしれません。
本作を観ていて気になって仕方がなかったことがあります。タイトルにある「博士」がなかなか出てこないのです!
博士が登場するのは半分を過ぎたあたりから。しかし、登場した博士がもう、見るからにイカれた感じで、強烈に印象に残ります。そして、ラストでイカれた構想を語り、最終的には意味不明なラストを迎えます。
まず、念頭にいれておくべきは、この映画は終始ブラックユーモアだということです。
マンドレーク大佐との会話から分りますが、リッパ―将軍は異常なほどにソ連を憎んでいます。水の中にフッ素化合物が入っているのは共産主義者の陰謀だと主張する様は、アメリカ国内の共産主義国に対する過剰な偏見を皮肉っているようにも感じます。
ストレンジラヴ博士
ストレンジラヴ博士という人物の一つ一つの挙動を観ていると、面白い点がいくつもあります。彼の出自はドイツです。彼の行動はドイツ人ということで説明ができます。
まず、彼の右手は勝手に上がってしまいます。あれは、ナチス式の敬礼をしようとしているのです。
そして、大統領のことをちょいちょい「総統」と呼んでしまっていることからも分かります。彼はナチズムの信望者なのです。
ユダヤ人を迫害したナチスの血統主義が、ストレンジラヴ博士のセリフからも分かります。選ばれた人間だけを助けようと考えているのですから。
世界が終わるというのに最後までスパイ活動しているソ連大使、電話をかけたら酔っ払っているソ連大統領。このあたりもネタなんじゃないかと思います。真意は分かりませんが。
最後はヴェラ・リンの『また会いましょう』の曲がかかり、核爆発の映像が流れる場面はなんとも味わい深いです。なんというか、「世界の終わりをこのように表現するのか」という驚きもありました。
キューブリック監督作品といえば、『シャイニング』『時計仕掛けのオレンジ』『2001年宇宙の旅』がかなり有名ですが、それらと比較しながら一風変わった本作『博士の異常な愛情』を観てみるのも面白いですね。
あわせて観たい映画
『グッドナイト&グッドラック』
2005年アメリカ作品。
ソ連との冷戦真っ只中、共産主義を徹底的に排除しようとする「赤狩り」。証拠もなくソ連のスパイと決めつけられた人達が追放される中、「赤狩り」を推し進めるマッカーシー上院議員に立ち向かうニュースキャスターのエドワード・R・マロ―を描いたノンフィクション映画。
第62回ヴェネツィア国際映画祭では男優賞と脚本賞を受賞。第78回アカデミー賞では6部門でノミネートされました。
『フルメタル・ジャケット』
1987年アメリカ作品。こちらも『博士の異常な愛情』と同じく、スタンリー・キューブリック作品です。
ベトナム戦争時、海兵の志願兵たちを描いた映画。ベトナム戦争という、アメリカ兵における多数の死者を出してしまった過酷な戦争を、ユーモラスに描いた作品です。