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【ネタバレあり】映画『明け方の若者たち』は「何も起こらない」ことが面白い?ラストは鳥肌!

どうも、映画監督志望の田中です。

「映画を作るうえで大切なのは、多くの映画を観ること」。毎日1本映画を観ている私が、個人的に感じた映画の見どころを紹介していきたいと思います!

※ネタバレ含みます

今回は、2021年12月31日公開映画『明け方の若者たち』のレビューをしていきたいと思います。

映画概要

この映画は、Webライターカツセマサヒコさんの同名長編小説デビュー作を、『ホリミヤ』『21世紀の女の子』などで知られる若手映画監督松本花奈さんが監督。東京で生きる若者たちの刹那的な大恋愛と、大人になることへの葛藤を描いた作品です。

主演は現在多くの映画・ドラマに出演中の注目若手俳優北村匠海さん。『東京リベンジャーズ』の主演やロックバンド「DISH//」のリーダーも務め、マルチに活躍しています。

ヒロイン役には『カツベン!』や『十二人の死にたい子どもたち』など話題作に出演する若手女優、黒島結菜さん。主人公“僕”の同期、尚人役は『ウルトラマンタイガ』の主演で知られる井上祐貴さんが務めています。

あらすじ

明大前で開かれた退屈で“変”な飲み会に参加した主人公の“僕”(北村匠海)は、そこで出会った“彼女”(黒島結菜)に一目惚れする。刹那的な大恋愛に溺れる“僕”は、世界が“彼女”で満たされる。そのいっぽう、社会人になった“僕”は、夢見ていた未来とは異なる現実に打ちのめされていく……。

ざっくり感想

この映画の面白いと思った部分は大きく分けて2つ。「恋愛映画ではない」ことと「何も起こらない」ことです。

恋愛映画ではない

この作品は、若者の刹那的な恋愛映画という側面が目立ちますが、根底に強くあるのは主人公“僕”の大人になることへの葛藤だと感じました。“僕”の相手役である“彼女”の出番はそこまで多くなく、“僕”の会社の同期である尚人との関係性に焦点が当たる場面が多い印象です。

“僕”にとって“彼女”は、社会と切り離された二人だけの世界に溺れることができる存在。いっぽう尚人は、ともに夢見ていた未来とは異なる現実で足掻く「仲間」。いわば現実の象徴です。

“彼女”も尚人も“僕”の前に現れる「若者」ですが、その意味合いは大きく異なります。中盤から尚人が“彼女”に去られた“僕”を励ます役として機能し物語を進めていく。そして彼のその後の人生も丁寧に描かれていく……という点が、この作品が恋愛映画とはいえない大きな理由といっても良いでしょう。

何も起こらないことの意味

“彼女”がいなくなって数年、尚人も会社を辞めることになります。その後果たして“僕”はどうなるのか……これといって何も起きないのです。抱いていた未来とは違う現実の中に溶け込み、転職を考えながらも劇中のラストまで行動に起こすことはありません。

この映画は、冒頭の“彼女”との出会いこそドラマチックなものの、そのほか特に何か起きるわけではありません。ラストシーンで“僕”は“彼女”との思い出の場所「クジラ公園」を訪れますが、そこで彼女に再会できるわけでもなく、ただ明け方の空を見上げるだけ。これがとても残酷でありながら、圧倒的な現実を突きつけるラストになっています。

主題歌『ハッピーエンドへの期待は』の効果

ラストシーンで流れるマカロニえんぴつの主題歌『ハッピーエンドへの期待は』も、冒頭の歌詞が「残酷だったなぁ人生は」と、まるでこの作品を象徴するようです。そのため、これといって何も起きないラストシーンにこの音楽が流れることで、それがむしろ妙にドラマチックな演出になっているというアイロニカルな現象が起き、鳥肌が止まりませんでした。

個人的見どころ

田中の思う、個人的な映画の見どころをご紹介していきます。

名シーン「王将クイズ」のナチュラルな演技

https://www.youtube.com/watch?v=SsZHG0yRwOE

「王将クイズ」のシーンは、この映画の大きな見どころといえるでしょう。“僕”と“彼女”がデートで餃子の王将を訪れ、“彼女”が出す王将クイズを楽しむという他愛ないシーンですが、北村匠海さんと黒島結菜さんの演技がとても自然だと話題になっていました。

実際にこのシーンを映画館で観ましたが、確かにお二人のナチュラルな演技が光る素敵なシーンだと感じました。特に北村匠海さんの受け答えが、本当に演技なのか分からないほど「素」に近いと感じ、たまたま隣にいるカップルの会話を盗み聞きしているような気分になりました。

素朴な北村匠海さん

この映画で特に印象に残っているのは、北村匠海さんの圧倒的な「素朴」さです。髪型や表情、喋り方、身につけている洋服にいたるまですべてがあまりにも「普通」であり、視聴者に親近感を覚えさせる仕上がりになっていたことに驚きました。

普通だったり地味だったりする役を俳優さんがやる場合、「それでもやっぱりオーラが出ている」とどこか違和感が生じてしまい場合もあります。しかし今回主人公“僕”を演じた北村さんは、どこまでも現実に打ち負け溶け込もうとしていく素朴な青年であり、その自然な演技に感嘆しました。

演技力の高い役者さんだとは常々感じていましたが、この映画では特に「受け」の演技が光っていたように思います。

石田役「楽駆」さんの存在感

この映画を語るうえで欠かせないポイントが、「楽駆」さんです。楽駆さん演じる「石田」は、“僕”の大学時代の知人として冒頭と終盤に登場します。個人的な感想ではありますが、石田という存在がこの作品をある種異様な、「普通の恋愛映画ではないんだろうな」と思わせるスパイスになっていると感じました。

石田は冒頭、“僕”と“彼女”が出会う「退屈な飲み会」の幹事を務めており、飲みの場を盛り上げる社交的な学生として描かれます。それを楽駆さんがとても個性的に、かつ自然に演じています。学生時代誰でも身に覚えがあるような、少しうざったく、でも愛嬌があり憎めない、かといって積極的に関わりたくはないタイプの人間を完璧に再現していたように感じます。

そのため、石田の登場シーンは多くないのにも関わらず、常に心の片隅に引っかかり続けるキャラクターとなっていました。これはいわば、すごく「魅力的」だったということです。

新人俳優「楽駆」さんの今後の活躍にも期待大です!

悪者のいない世界観

この作品の面白いところは、分かりやすい悪者が登場しないという点です。主人公、“僕”が働く会社の上司も、初めこそドライな印象を受けますが、徐々に部下思いの優しい上司であることが分かります。

同期の尚人ともライバル関係として対立することもなく、お互いを支え合う友好的な関係を築いていきます。もちろん“彼女”も、“僕”を騙すようなことはなく、初めから事実を伝えたうえで関係を続けます。

このように、淡々とした「何も起きない」世界観に呼応するように、作中で“僕”を揺るがすようなキャラクターというのが存在しないことが、作品の面白い部分といえるでしょう。

現実世界では、人は完全な悪者でも善人でもなく、その二つを持ち合わせているのが普通です。この作品のキャラクター達も、ずるい部分も優しい部分もありながら、特別誰かを傷つけることはない。その描き方が、“僕”をパッとしない現実に溶け込ませていく演出として上手に機能していると感じました。

スピンオフ作品も注目!

『明け方の若者たち』には、“彼女”視点で描かれるスピンオフ作品『ある夜、彼女は明け方を想う』が存在します。

2022年1月8日(土)より、Amazon Prime Videoにて配信されており、監督は本編と同様、松本花奈さん。キャストは黒島結菜さん、夫役に若葉竜也さん。

一貫して“僕”視点で描かれていた本編の裏側で、“彼女”は何を考えていたのかを知ることができます。本編で明かされていなかった“彼女”の夫についても詳しく描写されているので、気になる方はぜひご覧ください。

『明け方の若者たち』が好きな人におすすめの映画

この章では、『明け方の若者たち』が面白いと感じた人におすすめしたい映画をご紹介していきます。

今回は、「男女の刹那的な恋愛」「エモーショナル」「夜」「大人になることへの葛藤」を主なキーワードに、以下3つの作品をご紹介します。

花束みたいな恋をした

あらすじ

明大前駅で終電を逃したこで偶然の出会いを果たす大学生の山音麦と八谷絹。音楽や映画の趣味が似ており、お互い「自分みたいな人」に出会えた確信を持ち、あっという間に恋に落ちる。麦と絹は大学卒業後、フリーターをしながら同棲生活をスタートさせる。「日々の現状維持」を目標に就職活動を続けていく二人だが、麦が就職したことをきっかけに関係に少しずつ変化が起き始める……。

おすすめポイント

「明大前駅で出会う」「二人だけの夜を過ごす」「社会人(大人)になっていく過程で関係が変化する」など、『明け方の若者たち』との類似点が多く、楽しめるのではないかと思いました。

この作品でも、『明け方の若者たち』同様、男女の大恋愛とともに、大人になることへの葛藤や寂しさが描かれています。タイトルからロマンチックな恋愛映画を想像する方もいるかもしれませんが、内容はむしろ「普通の毎日を普通に送っていくことの難しさ」に焦点を置いたものになっております。

ドラマチックな出会いをし大恋愛をした二人が「実はどこにでもいる男女に過ぎなかった」現実を突きつけられる皮肉的な内容で、誰かを好きになり親密な関係になったことのある人なら誰にでも刺さるような演出が施されてる作品です。

生きてるだけで、愛

あらすじ

「生きてるだけで、ほんと疲れる。」鬱が招く過眠症で引きこもり状態になっている寧子と、寧子との同棲生活を続ける出版社勤務の津奈木。静かに生活していた二人だが、津奈木の元カノが現れたことがきっかけで、寧子は外の世界と関わらざるを得なくなる。そして二人の関係にも変化が訪れる……。

おすすめポイント

「二人だけの世界の崩壊」「社会と関わるうえでの葛藤や悩み」「美しい夜の描写」など、『明け方の若者たち』にも通づる魅力が満載の作品。同名小説の映画化という点も同様です。

この作品は躁鬱病の主人公寧子と、寧子を支える恋人津奈木、二人の物語を中心に周辺人物との関わり方なども描かれています。「どのように社会(外の世界)と順応していくか、折り合いをつけていくか」というテーマは『明け方の若者たち』と重なるものがあります。

また、この作品の大きな魅力は、夜の描写です。「赤」「緑」の光を多用した夜の風景は絶妙なコントラストで、寂しくも美しい静かな夜を演出しています。深い夜の世界に浸りたい人にもおすすめの作品です。

愛がなんだ

あらすじ

28歳のテルコはの生活は、マモちゃんに一目惚れした5ヶ月前から、マモちゃんを中心に動いている。いつだって最優先はマモちゃんで、そのせいで仕事をクビになってもお構いなしである。しかしマモちゃんにとってテルコは、都合の良い女でしかなかった。それでも今の関係を保っていたいテルコは、自分からは一切連絡をしないし、決して「好き」とは伝えない。

ある日、久しぶりマモちゃんから食事に誘われ会いにいったテルコ。そこにはマモちゃんの「好きな人」すみれさんがいて……。

おすすめポイント

この映画の要素である「好きな人にとって都合の良い自分」「失恋」は、『明け方の若者たち』の主人公“僕”に通づるものがあります。

この作品の主人公テルコの「どんな関係になってもマモちゃんと繋がっていたい」というある種異様とも取れるいじらしさ、健気さが新しく、世の中に蔓延する「愛」という言葉へのアンチテーゼのような内容になっています。マモちゃんに執着するテルコは、世間から見ると「可哀想」に映るかもしれませんが、本人は自分を「可哀想」だなんて思っていません。

人と人が出会ったら、それだけ関係性の形が生まれます。一つとして、同じ形はありません。『明け方の若者たち』と同様、二人の人間の出会いを「都合の良い関係」「不倫」などと一蹴できる人なんて本当はこの世にはいない、ということを思い知らされる作品です。

まとめ

総じてこの作品は「現実の厳しさを淡々と描いていく」ことが逆に妙にドラマチックなんだ、という演出に成功していると感じました。

現実では自分が期待するようなことはほとんど起こらない。普通の毎日が普通に続いていくだけ。それに気づき、受け入れていくことが大人になるということなのかもしれない。

そんなことを思わせてくれる作品でした!