こんにちは、映画監督志望の田中です!
毎日映画を観ている私が、おすすめの映画の見どころを紹介します。
今回紹介するのは、2022年公開の映画『ちょっと思い出しただけ』です。
公開直前に観に行かせていただいたので、鑑賞直後の熱量そのまま書かせていただきます!
※ネタバレ含みます
目次
概要
『バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画をつくったら』『くれなずめ』などの意欲的な作品を手がける松居大悟監督のオリジナル脚本を映画化。主演は池松壮亮さん、伊藤沙莉さん。
きっかけは、ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル尾崎世界観が自身のオールタイムベストに掲げる、ジム・ジャームッシュ監督の代表作『ナイト・オン・ザ・プラネット』に着想を得て書き上げた新曲「ナイトオンザプラネット」。この曲にインスピレーションを受けた松居監督が執筆した、初のオリジナルのラブストーリーが本作『ちょっと思い出しただけ』。
2021年の第34回東京国際映画祭コンペティション部門、観客賞受賞。
あらすじ
怪我でダンサーを諦めた照明スタッフの照生と、タクシードライバーの葉。物語はふたりが別れた後から始まり、6年分の時が巻き戻されていく。誰もが戻れない過去を抱え、今を生きている。そんな日々を、ちょっとだけ思い出してみる。
照生と葉を軸に、個性的な登場人物たちとの会話を通じ都会の夜に輝く人生の機微を、繊細に描いた恋愛映画。
感想
まずは、作品を観た感想をざっくりとご紹介します。
凝縮された6年間の誕生日
この作品は、照生の誕生日である「7月26日」を6年分行き来する構成です。照生と葉が共に過ごした長い時間をこのような形で描写することにより、駆け足感がなく関係性を伝えることに成功しています。
また、月日を重ねるごとに変わる主人公周辺の人物の変化も、1年という区切りで描写されていくので、確実に時間が流れていることがリアルに分かります。
恋人たちの出会いから別れを表現した映画は数あれど、1年のうちのある特定の日だけをフューチャーし6年分を描写するのは斬新で、テンポもよく中弛みしない構成になっていたと思います。
戻れない時間に想いを馳せる2時間弱
この作品の2時間弱は、視聴者の誰もが戻れない過去に想いを馳せる時間になるはずです。
視聴者の心を掴む映画の特徴の一つに、どれだけ感情移入できるか、自分ごととして捉えられるかというのがあると思います。この作品は、大切な人との出会いや過ごした大切な時間、別れと、まさに誰もが経験したであろう「過去」に似た何かがつまっています。
そのため、「自分にもこういう時間があった」と自身の過去に想いを馳せながら映画を観ることになります。あえて言いますが「絶対」、そうなってしまうはずです。
ぜひ、もう戻れない大切だった人との過去を「ちょっと思い出す」時間、堪能してみてはいかがでしょうか。少しの覚悟も必要かもしれませんが。
じんわりと染み入る登場人物たちの会話
この作品では、ナチュラルでありながら印象的な登場人物たちの会話が素敵でした。
主人公の葉はタクシードライバーという設定なので、自ずと多くの乗客と会話を交わします。一過性に過ぎない出会いでありながら、葉と乗客の会話は何とも考えさせるものが多く、じんわりと染み入っていきます。
特に高岡早紀さん演じるキャリアウーマン風の女性に「なぜタクシードライバーになったのか」と聞かれた際の葉のセリフがグッときました。
また、照生の家の近くにある公園で、死んだ妻の帰りを待つ永瀬正敏さん演じるジュンの存在も印象的でした。照生から2週間連絡が来なく悩んでいた葉がジュンに相談すると、たまには自分から迎えに行ってみても良いと言います。それはジュンが発するからこそ説得力があり、葉が行動を起こすきっかけにもなります。
このように、しかるべき場面でしかるべき人物がしかるべきセリフを吐く。それがナチュラルに行われている映画だと感じました。
見どころ
次に、作品の見どころを深掘りしていきましょう。
ずばり、全部!
この作品の見どころは、「全部」です。
というのも、作品全体を通し、山場というものはなく、基本的には淡々と照生と葉の過ごした日々が描写されていきます。もちろん照生と葉が出会った日のシーンは心が暖かくなるようなじんわりした感動がありますし、閉館した水族館にこっそり2人で訪れるシーンは観ている側も思わずどきどきしてしまいます。
しかし、この作品の魅力は、淡々と2時間弱を味わうことで見えてくると思いました。2人の別れのシーンはとてもあっさりしていますし、明確な別れの理由も明示されていません。ラストシーンでも、2人が再び対面することはありませんでした。
そんなわけでこの作品には、劇的にドラマチックな展開があるというわけではありません。ただ、6年間を大切に過ごした男女がいた、その2人がどんな会話を交わし、どんなものを食べ、どんな日々を過ごしてきたのかをただ傍観することこそが何より作品を味わえるポイントだと思います。
ずば抜けた存在感の國村隼さん
この作品では、照生の行きつけのバーの店主中井戸として、國村隼さんが出演しています。國村さんの存在はずば抜けていて、この作品をより味わい深いものにしていました。
中井戸の発する言葉は決して難しいものでなく、いつもシンプルでストレートです。それが嫌味なく人々の心にじんわり染み入っていき、なんとも暖かい気持ちになるのです。
誕生日にバーでケーキを食べる照生のシーンはとても印象的でした。怪我でダンサーを諦めた照生は、ケーキを食べながら「あの時はいくらでも美味しいものを我慢できたのに」と呟きます。その際に中井戸が「楽しかったでしょ。美味しいものを我慢できるほど夢中になれるものがあるなんて」と笑うのです。(セリフ正確ではありません)
照生が節目節目に通いたくなるのも分かる気がします。ぜひ本作を観る際は、普段の役とは一味違う國村隼さんに注目してみてください!
主題歌「ナイトオンザプラネット」
この作品での見どころならぬ「聴きどころ」は、クリープハイプの主題歌「ナイトオンザプラネット」です。
もともと、この曲を聴いた松井監督がインスピレーションを受けて作られたのが本作。劇中の随所に、「ナイトオンザプラネット」の要素が散りばめられています。
この曲は、ジム・ジャームッシュ監督作品『ナイトオンザプラネット』を観た男女の思い出がエモーショナルな歌詞で紡がれています。劇中でも、何度も『ナイトオンザプラネット』が登場します。
ナイトオンザプラネットに出てくるウィノナライダーは、葉と同じタクシードライバー。葉がウィノナライダーの真似をして照生が喜ぶシーンは、二人だけの究極の内輪ノリとして楽しめます。
より作品を楽しむために、ぜひ『ナイトオンザプラネット』を観てから本作を鑑賞して欲しいです!そしてしかるべき場所で流れるクリープハイプの「ナイトオンザプラネット」をご堪能ください。
私は観賞後、帰り道の新宿駅で「ナイトオンザプラネット」を聴きながら悦に入って帰りました。
『ちょっと思い出しただけ』がおすすめな人の特徴
映画『ちょっと思い出しただけ』をより楽しめる人の特徴をご紹介します。
- 恋愛映画が好き
- ジム・ジャームッシュが好き
- クリープハイプが好き
- ちょっと感傷に浸りたい気分
- 一人でしっぽりと映画を観たい
- 明日結婚します
- 失恋の傷が癒えない
- たまに思い出してしまう人がいる
『ちょっと思い出しただけ』が好きな人におすすめの映画
この章では、映画『ちょっと思い出しただけ』が好きな人におすすめの映画をご紹介します。
ナイトオンザプラネット
ロサンゼルス・ニューヨーク・パリ・ローマ・ヘルシンキの5都市で同時刻に走るタクシー内で起きる物語を、オムニバスで描くジム・ジャームッシュ監督作品。
大物エージェントを乗せた若い運転手、英語が通じない運転手、盲目の女性客を乗せ口論する運転手、神父相手におしゃべりする運転手、酔っ払いの客に翻弄される運転手…。
地球という同じ「星」の、同じ夜空の下で繰り広げられる異なるストーリー。ウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、ロベルト・ベニーニなど豪華キャストが揃います。
おすすめポイント
ご存知の通り、『ちょっと思い出しただけ』に最もゆかりの深い映画といえるでしょう。主題歌「ナイトオンザプラネット」を作ったクリープハイプ尾崎世界観さんが着想を得た作品です。
願わくば、ぜひ『ちょっと思い出しただけ』を観る前に観てほしい作品です。
この作品での注目シーンは、ウィノナライダーが大物エージェントに「女優にならないか」とスカウトを受ける場面です。『ちょっと思い出しただけ』で葉が憧れたシーンでもあり、必見です。ちなみに私もこのシーンが大好きで、「自分を持っているウィノナライダーかっこいい」と葉と同じことも思いました。
花束みたいな恋をした
明大前駅で終電を逃したこで偶然の出会いを果たす大学生の山音麦と八谷絹。音楽や映画の趣味が似ており、お互い「自分みたいな人」に出会えた確信を持ち、あっという間に恋に落ちる。麦と絹は大学卒業後、フリーターをしながら同棲生活をスタートさせる。「日々の現状維持」を目標に就職活動を続けていく二人だが、麦が就職したことをきっかけに関係に少しずつ変化が起き始める……。
おすすめポイント
この作品は、『ちょっと思い出しただけ』同様、男女の出会い、過ごした時間、別れが描かれています。
男女の関係性のピークや徐々に感情が冷めていってしまう部分がリアルに濃密に描写されており、観賞後の切なさは『ちょっと思い出しただけ』以上かもしれません。
また、この作品では男女の大恋愛とともに、大人になることへの葛藤や寂しさが描かれています。タイトルからロマンチックな恋愛映画を想像する方もいるかもしれませんが、内容はむしろ「普通の毎日を普通に送っていくことの難しさ」に焦点を置いたものになっております。
ドラマチックな出会いをし大恋愛をした二人が「実はどこにでもいる男女に過ぎなかった」現実を突きつけられる皮肉的な内容で、誰かを好きになり親密な関係になったことのある人なら誰にでも刺さるような演出が施されてる作品です。ぜひチェックしてみてください。
明け方の若者たち
明大前で開かれた退屈で“変”な飲み会に参加した主人公の“僕”(北村匠海)は、そこで出会った“彼女”(黒島結菜)に一目惚れする。刹那的な大恋愛に溺れる“僕”は、世界が“彼女”で満たされる。そのいっぽう、社会人になった“僕”は、夢見ていた未来とは異なる現実に打ちのめされていく……。
おすすめポイント
Webライターカツセマサヒコさんの同名長編小説デビュー作を、『ホリミヤ』『21世紀の女の子』などで知られる若手映画監督松本花奈さんが映画化しました。東京で生きる若者たちの刹那的な大恋愛と、大人になることへの葛藤を描いた作品です。
この作品も、『ちょっと思い出しただけ』同様、男女の出会い、過ごした日々、そして突然の別れが描かれています。さらにこの作品では、大学時代に“彼女”と出会い恋に溺れた主人公、“僕”が、社会人になり“彼女”との世界ではない社会という壁に直面するという部分も多く描写されています。
もう戻らない大切だった過去を糧にし、明日を生きる希望を見出していく作品です。ぜひご覧ください。
まとめ
以上、映画『ちょっと思い出しただけ』の感想や見どころをご紹介しました。
願わくばこの映画を観た人が、大切にしまっていた過去をちょっと思い出して、それが明日を生きる糧になりますように。そんなことを願わずにはいられない素敵な映画でした。
記事公開現在(2月16日)、絶賛公開中です。
ぜひ映画館でご覧ください!
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