【ネタバレあり】映画『Summer of 85』はなぜこんなに切なすぎるのか!「終わりの予兆」効果と皮肉な演出がすごい

こんにちは、映画監督志望の田中です。

毎日映画を観ている私が、おすすめの映画の魅力や見どころをご紹介します。

本日紹介するのは、2020年公開の映画『Summer of 85』です。

この作品、とにかく恋をすることの喜びと切なさを詰め込んだ青春映画の名作。フィルム特有のざらつきや爽快感のある音楽、観賞後のえも言われぬ虚無感など、とにかく印象的な映画です。

まだ観てない人、今年の夏は特に何もしなかったという方、ぜひこの映画で「85年のフランスのひと夏」を擬似体験して欲しいです!

※ネタバレ含みます

概要

フランス映画界の名匠、フランソワ・オゾン監督が影響を受けたエイダン・チェンバーズの小説「おれの墓で踊れ」を映画化。

少年たちの人生を変えた、ひと夏の初恋を鮮やかに描きます。

主演には、フェリックス・ルフェーブルとバンジャマン・ボワザン。第73回カンヌ国際映画祭、オフィシャルセレクション選出作品。

あらすじ

セーリングを楽むためヨットで沖に出た16歳のアレックス。しかし突然の嵐に見舞われヨットは転覆し、たまたま居合わせた18歳のダヴィドに救出される。

2人は出会ってから急速に友情を深め、それはやがて恋愛感情へと発展。アレックスにとって、それは初恋となった。

2人はダヴィドの提案で、「どちらかが先に死んだら、残された方がその墓の上で踊る」という誓いを立てる。2人は女友達ケイトが原因で大喧嘩をし、その後ダヴィドは不慮の事故により死亡。2人の時間はあっけなく終わりを迎える。初恋の人を失い生きる希望を失ったアレックスを突き動かしたのは、ダヴィドと交わしたあの誓いだった…。

感想

まずは映画のざっくりした感想をお伝えします。

人を好きになることの喜びと切なさ

この作品では、誰かを好きになることの純粋な喜びと、それに伴い訪れる切なさを美しく描き切っています。

セーリング中に転覆したアレックスを助けてくれたダヴィド。二人はあまりにも自然に恋に落ちます。アレックスにとって、それは初恋でした。アレックスは初めて人を好きになる感情を知り、喜びを感じながらも、その感情のあまりの激しさに戸惑います。

劇中では、「ほんの一瞬も離れたくなかった。それでも満たされなかった」というアレックスのセリフがあります。どれだけ一緒にいても満たされないのは、いくら心を通わせた相手だからといってその人のすべてを理解し、手に入れることはできないという事実に、アレックスがまだ気づいていなかったからでしょうか。

一方ダヴィドは、アレックスに恋をし、燃えるような恋愛に夢中になりますが、ケイトと出会いあっけなく乗り換えたような素振りを見せます。しかしケイトとの一件でアレックスと溝が生まれ口論になった際、「君に飽きた」と言いながらダヴィドは涙を流します。

ダヴィドは、燃えるような突発的な恋にはいつか終わりが来ることを知っていたのでないでしょうか。

この作品では、恋には甘さと痛みが伴う、それでも誰かを好きになることはやめられないという普遍的なメッセージが込められているように思います。

これはある16歳の少年の物語に過ぎない

この映画は、誰もが共感できる青春映画の体をなしていながら、その実誰も寄せ付けないような排他的で不気味な一面もあります。

映画の冒頭で、アレックスは「死体(ダヴィド)が生きていた頃に興味がなければ、この先を観るのはやめた方が良い。君の物語じゃない」というセリフを発します。つまりこの物語は、ある一人の16歳の少年、「僕」の物語に過ぎず、視聴者の物語ではないということを示していように感じます。

「青春映画」「恋愛映画」という形を見せている一方で、「共感なんてしなくて良い」と手始めに突き放すような演出をしているのがなんとも皮肉的で面白いです。

実際二人の若さゆえの未熟な関係性や恋に落ちる速度にどれだけ身に覚えがあろうとも、それはただ単に似ているというだけ。ここには「僕」だけの物語があるに過ぎず(厳密にいえば、それはダヴィドすらも介入できない次元)、逆にあなたにはあなただけの物語がある。この冒頭のセリフは、それを示しているように感じました。

見どころ

次に、作品の見どころをご紹介します。

自然に惹かれていく少年二人の美しさと危なさ

この作品の魅力は、恋に落ちる少年二人の美しさにあると思います。

内気で物静かな少年アレックスと、社交的で自由奔放なダヴィド。二人が出会い、恋に落ちるというだけで絵になります。しかし美しさはビジュアル面だけではなく、そのあまりに刹那的な関係の危なっかしさにもあると思います。

二人の急速に縮まっていく関係には、常に若者の恋愛特有の焦燥感や独占欲が垣間見えます。その危なっかしさは、「いつ終わりがきてもおかしくない」と視聴者までもが感じてしまうほど。

しかし言い換えれば、若者の恋は刹那的だからこそ美しいともいえます。私たちがこの映画を通して彼らの関係を美しいと感じるのは、それが常に終わりの予兆を孕んでいるからではないでしょうか。

85年のざらついた街並み

この映画の舞台は85年のフランス。当時を再現するかのように、映画全体の質感もフィルム調でざらついています。当時の若者のファッションや街の雰囲気を堪能することができ、映像的にも非常に楽しめること間違いなしでしょう。

特に美しいの海と海沿いの街並み。夏の煌めきがこれでもかと詰まった映像がとても綺麗で、見入ってしまいます。

刹那的な物語を象徴するクラブシーン

個人的に特に素敵だと感じたのは、アレックスとダヴィド、二人の関係性のピークに挟まれるクラブシーン。

クラブで踊り明かす二人、ちかちかと点滅するライト、ダヴィドがアレックスに聴かせる「Sailing」。すべてが幻のようで、楽しいシーンであるにも関わらず泣きたくなってしまいます。

音楽も素敵なので、ぜひ堪能してください。

効果的に演出される「終わりの予兆」

この作品のあらゆるシーンが印象的で胸を打つのは、それが常に「終わりの予兆」を孕んでいるからだと思います。

冒頭でダヴィドの死を明かしていることで、その後のすべてのシーンに「終わりの予兆」が付与される仕組みです。このおかげで、視聴者は二人の関係性がすでに終わっていることを知りながらシーンを観ることができます。

映画も恋も「終わり」があるからこそ、尊く美しいのかもしれませんね。

映画を観た人の感想一覧

次に、実際に映画を観た人の感想を見ていきましょう。

  • 性別関係なく、自然に相手を好きになる描写が好きだった
  • 「夏休み」という感じの色合いが好き
  • 明るくて切ない映画だった
  • 本作にザ・キュアーの名曲が魂を与えている
  • 切なくて胸が締め付けられた
  • 海辺の街の雰囲気が良かった
  • 恋も命も一瞬だからこそ切ない
  • 若者特有の葛藤が描かれていた
  • 幻想を求めるがゆえの盲目の恋

映像的な美しさを称賛する声、刹那的な恋に胸が締め付けられたという声が多かった印象です。

『Summer of 85』がおすすめの人の特徴

『Summer of 85』がより楽しめる人の特徴は、以下のような人だと感じました。

  • 夏を感じたい
  • 音楽も楽しみたい
  • 悲恋映画が好きな
  • フランスの美しい街並みを堪能したい
  • 切ない気分になりたい
  • フィルムの質感が好き
  • ザ・キュアーの楽曲が好き
  • おしゃれな映画が好き

『Summer of 85』が好きな人におすすめの映画

ここでは、『Summer of 85』が好きな人におすすめの映画をご紹介します。ぜひ併せてチェックしてみてください。

君の名前で僕を呼んで

80年代イタリアを舞台に、17歳と24歳の青年のひと夏の情熱的な恋を描いたラブストーリー。北イタリアの美しい風景も魅力です。アンドレ・アシマンの同名小説が原作。第90回アカデミー賞作品賞ほか、4部門にノミネート。『インターステラー』のティモシー・シャラメと『ソーシャル・ネットワーク』のアーミー・ハマーが主人公で共演。

83年の夏。家族に連れられ北イタリアの避暑地にやって来た17歳のエリオ。エリオはそこで、大学教授をしている父が招いた24歳の大学院生、オリヴァーと出会う。一緒に泳ぎ、自転車で街を散策し、本を読み音楽を聴き、一緒に過ごすうちに、エリオはオリヴァーに特別な想いを抱くようになる。二人はやがて燃えるような恋に落ちるが、夏の終わりとともにオリヴァーはエリオのもとを去っていき……。

おすすめポイント

『Summer of 85』を観た人のなかには、『君の名前で僕を呼んで』を思い出したという声も多くあがっていました。

ともに80年代が舞台、ひと夏の燃え上がる恋、そしてその終わり、と『Summer of 85』と非常に類似点の多い作品です。映像的にも美しく、北イタリアの雰囲気を楽しめるのでおすすめです。ぜひご覧ください。

(500)日のサマー

建築家を夢見ながらも、グリーティング・カード会社で働くトム。その会社に社長秘書として入社したサマーに、トムは一目ぼれをする。運命の恋を信じるトムは、サマーに猛アプローチ。遂に一夜を共にし有頂天になるトムでしたが、サマーにとってトムは運命の人なんかではなく、ただの「友だち」でしかなかった…。

おすすめポイント

片想い映画の金字塔、『(500)日のサマー』。こちらも、ひと夏の恋と、恋こがれる相手に振り回される主人公と、恋の喜びと切なさを味わえる作品です。

主人公が恋するヒロインのサマーは人を惹きつける魅力がある女性で、一人との恋愛にとどまらない奔放さを持っています。主人公はサマーに夢中になるあまり周りが見えなくなり、独占欲に支配され私生活にまで支障をきたします。

大失恋の末、意外とあっさり別の相手に恋をする展開も『Summer of 85』と似ているのでぜひ観てみてください。こちらはカラッと、コメディ調の失恋映画です。

ジュテームモワノンプリュ

廃品運搬の仕事をして暮らす恋人同士の青年クラスキーとパドヴァン。ある日二人は立ち寄ったバーで、ボーイッシュな少女、ジョニーと出会う。やがてクラスキーとジョニーの間に恋心が芽生えるが、そんな二人にパトヴァンが嫉妬し…。

主題歌はジェーン・バーキン とセルジュ・ゲンスブールの同名の名曲『Je t’aime moi non plus』。劇中に何度も登場する、非常に切なく印象的な楽曲です。

おすすめポイント

『Summer of 85』を観た人にぜひおすすめしたいのが、この映画です。

同じフランス映画であり、恋愛の多様性も描かれている本作ですが、注目して欲しいのは主人公クラスキーとジョニーのあまりに刹那的な恋愛模様。この世に「刹那的な恋愛映画」は数あれど、これほど切なく健気に描かれているものはあまり観たことがありません。

また、音楽を劇中で効果的に使用しているという点でも『Summer of 85』に通ずるものがあるので、ぜひチェックしてみてください。めちゃくちゃおすすめです…!

まとめ

以上、『Summer of 85』の見どころや感想をご紹介しました。

個人的には2021年公開映画でもトップ3に入るほどの名作だと思います。単なる恋愛映画ではなく皮肉が効いていますし、作品の世界観にマッチしたフィルム調の映像や効果的な音楽など、とても完成度の高い作品だと感じました。

世の中には非常に多くの、若者の恋愛映画が存在します。恋愛映画に求めるものは「共感」「ときめき」など人によってさまざまかと思いますが、若者の恋愛映画が人の心を締め付ける原因は、そこに終わりの予兆があるからだと思います。若者の恋は多くの場合、長続きしません。未熟ゆえ、「焦り」「葛藤」「独占欲」「孤独」など障害が多いからです。

いつの世も、終わりがあるからこそ恋は美しい。一瞬だからこそより輝く。そんな、ひと夏の少年たちのきらめきがこの作品には詰まっています。

ぜひチェックしてみてください!

この記事を書いた人

TANAKA

TANAKA