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映画『天使の涙』から考える若者のディスコミニュケーション【ネタバレあり】

こんにちは、映画監督志望の田中です。

毎日映画を観ている私が、おすすめしたい映画の魅力や感想をご紹介します。

本日ご紹介したいのは、香港の名匠ウォン・カーウァイ監督の群像劇映画『天使の涙』。名だたる映画スター達の香港の街が融合した名作です。

今回は、作品の含まれるテーマ性「若者のディスコミニュケーション」に焦点を当てていきたいと思います。

※ネタバレ含みます

あらすじ

殺し屋は顔も知らないエージェントとビジネスのパートナーを組み、順調に仕事をこなしていた。自分たちは良きパートナーだと思ってすらいた。しかしエージェントに惚れられてしまった殺し屋は、2人の関係に終わりが近づいていることを知る。さらに、殺し屋に恋したもう一人の女が現れる。一方、手痛い失恋をした女は、傷が癒えるまでの期限付きで、口がきけない男と付き合うこととなるが…。

妖しくきらめく香港の街を舞台に、5人の男女の物語が交錯していく。

概要

ネオンきらめく香港の街、音と光。5人の若者たちの恋と青春群像を描いた香港の名匠ウォン・カーウァイによる映画作品。

全編にわたる極端なワイドレンズ、トレードマークのコマ落とし・コマ伸ばしの連続。アクション場面の躍動感、光と音の斬新でスタイリッシュな使い方など、ビジュアルセンスにさらに磨きのかかった一遍です。

製作は『黒薔薇VS黒薔薇』、『チャイニーズ・オデッセイ』など娯楽作品の監督を務めるジェフ・ラウ。撮影は『欲望の翼』以来コンビを組むクリストファー・ドイル。美術は『いますぐ抱きしめたい』以降のカーウァイと組むウィリアム・チョンなど、ウォン・カーウァイ作品の常連スタッフが集結しました。

出演は『妖獣都市・香港魔界篇』『シティー・ハンター』のレオン・ライ、『スウォーズマン/女神伝説の章』のミシェル・リー、『恋する惑星』『初恋』の金城武、『バタフライ・ラヴァーズ』『トワイライト・ランデブー』のチャーリー・ヤン、『チャイニーズ・オデッセイ』のカレン・モクいつも通りの豪華メンバー。

『天使の涙』から考えるディスコミニュケーション

ディスコミニュケーションの意味には、「相互不理解」「対人コミニュケーション不全」「意思伝達ができない」などといったようなものがあります。

本作は、主に「ほとんど顔を合わせない殺し屋とエージェント」と「口の聞けない男と期間限定で付き合う女」の二軸でストーリーが展開されます。つまりどちらも、相手とのコミュニケーションが不足した状態で関係を続けているということです。

登場人物たちはモノローグにより自分の気持ちを吐露しますが、相手に直接気持ちを伝えることはありません。特に金城武演じる「口の聞けない男」は、 物理的に気持ちを伝えることができず、心情世界のようなモノローグでのみ、非常に饒舌になります。

この演出からも、人が饒舌になるのは心中のみで、それがいざ対人になると、どう伝えて良いかが分からず口籠ってしまう(ディスコミニュケーション)という普遍的な問題が浮かび上がってくるように思います。

本作は、こういった人間のディスコミニュケーションから来る人間関係の飢え、欲求不満のようなものがよく表されているように感じます。

殺し屋とエージェント

殺し屋とエージェントの関係に目を向けてみましょう。

二人は、非常にビジネスライクな関係でした。エージェントが殺し屋に依頼を出し、殺し屋はその依頼に忠実に応える。このようにして二人の関係は成り立っていました。均衡が保たれていたと言っても良いでしょう。しかし、エージェントが殺し屋に恋をしてから、歯車が狂い始めます。

殺し屋は、エージェントの気持ちに気が付いたとき、この関係の終わりを予期します。時同じくして、殺し屋はもう一人の女と出会います。彼女は饒舌な女で、激しく殺し屋を求めます。殺し屋は、常に「ノー」とは言いません。しかし「イエス」とも言わない。寡黙な男なのです。

殺し屋は相手とのコミュニケーションを求めようとしません。それは女性に関わらず、どんな人間に対してもそのような傾向があるように思えます。「結婚はしないのか」と聞かれることが面倒で、架空の妻をでっち上げるのも、面倒なコミュニケーションを避けているように思えます。

つまり殺し屋は、コミュニケーションを諦めている若者であり、出会う女は、コミュニケーションを諦めたくない若者であると考えられます。相反する考え方を持つ人間同士がうまくいくはずもなく、関係は長続きしません。

当初、殺し屋がエージェントと良好な関係を築けていると思っていたのは、事務連絡以外のコミュニケーションが存在してなかったからかもしれません。そしてエージェントが、それ以上のコミュニケーションを求めようとした。その時点で殺し屋の中で、エージェントは必要な人間でなくなったとも取れます。

失恋女と口の聞けない男

次に失恋女と口の聞けない男の関係を考えてみましょう。

失恋女は、自分を裏切った恋人に対し、電話で非難轟々浴びせます。コミュニケーション過多といっても良いほどの罵詈雑言です。しかし、いくら言葉で相手を説き伏せようとしても、相手の気持ちは変わることがないのです。何かを伝えようともがけばもがくほど、相手は遠のいていきます。

そのことを悟った女はコミュニケーションに疲れ、口の聞けない男を選ぶことにします。コミュニケーションをする必要のない相手となら、伝わらない悲しみを味わう必要がないと考えたのかもしれません。

しかし、女はコミュニケーションを諦めきれず、結局は男のもとを去っていってしまいます。男は、「行かないで」と止めることすらできません。

この、去っていく人間に対し、どうしても「行かないで」と止めることができないというディスコミュニケーションは、多くの人が経験したことがある苦い記憶なのではないでしょうか。

本作は悲しいほど、素直になれる人間が存在しません。そしてそれが、本作がこれほどまでに寂しく美しい所以でもあるでしょう。

ラストシーンから見る希望

ラストシーンでは、偶然飲食店でエージェントと口の聞けない男が出会います。

二人はバイクで夜の街を駆け抜ける。これが本作のラストシーンです。このシーンで流れるエージェントによるモノローグがこちら。

帰るとき 
彼に送ってと頼んだの
初めて人と こんなに近く
すぐに着いて分かれるのは
分かってたけど
今のこの暖かさは永遠だった

パートナーを失ったエージェントが、自分の素直な気持ちを吐露した場面といえるでしょう。きっと二人のコミュニケーションは成功し、暖かい気持ちになる。このとき、The Flying Picketsの 「Only you」が流れているんですね。

なんとも幸福感あふれるラストシーンですが、このエージェントのモノローグは、若者同志の希薄な人間関係を示唆しているように感じてなりません。

人と触れ合うと温かみを感じるが、それは長くは続かない。人は去り、そしてまた現れる。その繰り返し。特にこの大都会、香港ではそんなことはありふれているのだ。それでも、そうだとしても、今ここにこの人がいることは事実で、背中のぬくもりは永遠である。そんな、少し寂しい希望を漂わせる、印象的なラストシーンで物語を幕を閉じるのです。

『天使の涙』が楽しめる人の特徴

映画『天使の涙』が楽しめる人の主な特徴は、下記のとおりです。ぜひご参考にしてください。

  • アジア映画が好き
  • 香港の街並みが好き
  • アート系の作品が好き
  • フィルム独特の質感を楽しみたい
  • 音楽が効果的に作用している映画が好き
  • 金城武が好き
  • アジアスターが出ている豪華な映画が好き
  • ストーリー展開より雰囲気を楽しみたい

『天使の涙』が好きな人におすすめの映画

ここでは、映画『天使の涙』が好きな人におすすめしたい映画をご紹介します。ぜひ併せてチェックしてみてください。

恋する惑星

香港を舞台に、若者たちのすれ違う恋模様を描いた作品で、ウォン・カーウァイ監督の名を世に知らしめた群像ラブストーリー。メインキャラクター刑事223号を金城武、警官633号をトニー・レオンが演じています。第14回香港電影金像奨で最優秀作品賞など3部門を受賞しました。

「その時 彼女との距離は0.1ミリ。57時間後 僕は彼女に恋をした―」

エイプリルフールに失恋した刑事223号。振られた日からちょうど1カ月後、自分の誕生日までパイン缶を買い続けている。恋人を忘れるため、その夜出会った女性に恋をしようと決めた223号は、偶然入ったバーで金髪サングラスの女性と出会う。一方、ハンバーガーショップの店員フェイは、店の常連の警官633号にあてられた元恋人からの手紙を店主から託される。その手紙には、633号の部屋の鍵が同封されていた。633号に恋心を抱いているフェイは、その鍵を使って部屋に忍び込む……。

「用心深くなりレインコートを脱がない女」「誕生日までパイン缶を集める刑事」「同じ曲をかけ続けるハンバーガー屋の店員」「失恋の傷が癒えず、寄せられる恋心には鈍感な警官」……。無国籍な香港を舞台に交錯する男女を描いた、90年代の空気感をリアルタイムに封じ込めた群像劇。

おすすめポイント

『恋する惑星』は、同じくウォン・カーウァイ監督が香港を舞台に若者のディスコミュニケーションを描いた作品です。

同じように90年代の香港の街並みや、希薄で餓えに満ちた若者の人間模様を味わうことができます。『天使の涙』でも光っていた登場人物たちのお洒落なモノローグが多用され、独特の浮遊感を堪能できるでしょう。

『天使の涙』に出演していた金城武が、この作品では失恋した警官役として登場します。

初恋

ウォン・カーウァイプロデュース、金城武&カレン・モク共演の異色青春ドラマ。

夢遊病の少女と夜間清掃員の青年。恋に臆病な男とその恋人が繰り広げる、2つの恋の行方を描くオムニバス形式の物語。ドキュメンタリータッチの描写を多用し、ライブ感を駆使したこの作品を監督したのは、DJ、デザイナー、ラッパーなどの活躍で香港のカルチャーシーンをリードするエリック・コット。

おすすめポイント

この作品は、ウォン・カーウァイ監督がプロデュースしただけでなく、『天使の涙』に登場した金城武が主演を務めています。金城武に興味を抱いた方は、ぜひこの作品もチェックしてみてほしいです。

本作では、金城武が個性的な役側を演じきっており、『天使の涙』に出演したカレン・モクも出演しています。ウォン・カーウァイ好きなら一度は観ておきたい作品と言って良いでしょう

マイ・ブルーベリー・ナイツ

『2046』『恋する惑星』のウォン・カーウァイ監督初となる英語劇のラブストーリー長編作品。失恋したエリザベスは、カフェのオーナー・ジェレミーが焼くブルーベリーパイにより少しずつ傷が癒されていく。それでも元恋人への気持ちを捨てきれない彼女は、ひとり旅に出ることを決意する。エリザベスは行く先々でさまざまな問題を抱えた人びとに出会い、自分の中にもある心境の変化がもたらされる。

グラミー賞受賞歌手のノラ・ジョーンズが主演デビューを飾る。ジュード・ロウ、レイチェル・ワイズ、ナタリー・ポートマンら豪華映画スターが勢ぞろい。

おすすめポイント

こちらはウォン・カーウァイ監督初の洋画作品。これまでの作品と同様、銀幕スターが勢揃いしており、見応え抜群です。

中国語以外のウォン・カーウァイ作品は想像できませんでしたが、実際に観てみると、これでもかというくらい彼の作品の魅力が発揮されており、ノラ・ジョーンズとの親和性には驚くばかりです。

ブルーベリーパイにアイスが溶ける象徴的なシーンは、一度見たら忘れられないものになるでしょう。

まとめ

以上、『天使の涙』から見る若者のディスコミュニケーションについて解説しました。

果たして、口の聞けない男がもし言葉を発することができたら、去っていく彼女に対し「行かないで」と止めることができたのでしょうか。

自分の本当の気持ちを伝えるためには、多くの問題−−「プライド」「恐怖」「不安」−−を取っ払わないといけません。どうか若者に、私たちに、それができる勇気を。そう思わずにはいられません。

最後までお読みいただきありがとうございました!