【ネタバレあり】押井守の隠れた名作『天使のたまご』は超前衛的?ベースはもう一つの「ノアの方舟」

概要

『天使のたまご』は、1985年に制作されOVA作品です。原案・監督・脚本は押井守。発売元は徳間書店、DVD版は2001年にパイオニアLDCから販売。2007年1月、徳間書店よりDVD版再発しています。

ノアの方舟が陸地を見つけられなかったもう1つの世界を描く。巨大な眼球を持ち、なかに複数の人型の彫像が鎮座する機械仕掛けの奇妙な太陽が海に沈むと、世界は夜を迎える。舞台は方舟のなかの動物がすべて化石になったころの忘れ去られた街。

一人の少年と、一人の孤独な少女が出会う…。

スタッフ

  • 製作 – 徳間康快
  • 企画 – 山下辰巳、尾形英夫
  • 原案 – 押井守、天野喜孝、アニメージュ文庫『天使のたまご』
  • 脚本・監督 – 押井守
  • プロデューサー – 三浦光紀、和田豊、小林正夫、長谷川洋
  • 美術監督、レイアウト監修 – 小林七郎
  • 作画監督 – 名倉靖博
  • アートディレクション(正確にはキャラクターデザイン及び美術設定) – 天野喜孝
  • 音楽監督 – 菅野由弘
  • 音響監督 – 斯波重治
  • 撮影監督 – 杉村重郎
  • 編集 – 森田清次
  • アニメーション制作 – スタジオディーン

天使のたまごの登場人物

少女

廃墟と化した町で丸いガラス瓶を集めながら、孤独に暮らす幼い少女。常に大事そうにたまごを抱きかかえている。

少年

十字架のような大きな武器を担いだ少年。赤い戦車に乗李、どこからともなく少女のいる廃墟の町へやって来た。

感想

まずは『天使のたまご』の感想をご紹介します。

旧約聖書「ノアの方舟」を独自に解釈した物語

この作品は、旧約聖書創世記に登場する「ノアの方舟」のエピソードを独自解釈した物語をベースにしています。

<ノアの方舟 あらすじ>

地上で繰り返される多くの争いごとに嫌気がさした神様は、あるとき地上を一掃するため大洪水を起こす。


ただ神様は、たったひとりだけ正しい心をもつノアを救うために「方舟をつくり、家族と動物たちを載せるように」と伝える。
神様の言葉を信じたノアは、巨大な舟を作り始める。しかし人びとは、素っ頓狂なことを言うノアを馬鹿にし「大洪水がくる」ことをてんで信じようとしない。


実際、何十日もの間続いた雨で陸地は沈み、人間も動物も地上から姿を消してしまう。
方舟に乗ったノアと家族と、動物たちを除いて…。

『天使のたまご』は、この旧約聖書「ノアの方舟」の、方舟が陸地を見つけられなかったもう一つの世界という設定です。

舞台は方舟のなかの動物がすべて化石になったころの忘れ去られた街。廃墟となった町には、孤独な少女が一人で暮らしています。大洪水の余韻の残るその街は、物悲しく淋しい。

この独特の世紀末じみた作品の雰囲気は、視聴者に独特な没入感を与えます。まるで世界に自分以外誰もいないような感覚、ぜひ楽しんでいただきたいです。

ほぼセリフのない表現のみの作品世界

『天使のたまご』は、ほぼセリフがなく、起伏のあるストーリー展開も存在しない超前衛的な内容の作品となっています。

映像的表現からストーリーを掴み、そしてメタファーやモチーフを感じることがこの作品の醍醐味となります。しかし物語の核となるのは少女が大切に持っている「たまご」であり、「たまご」の中身は何が入っているのかを考えながら観ていくことで、見失わずに最後まで鑑賞できると思います。

個人的には内容を理解しようとするよりは、静謐で虚無的な作品世界に身を置き、没入することでより楽しめると感じました。

とにかく作り込まれた廃墟の街が美しいこと…!ぜひ映像美に酔いしれていただけたらと思います。

ぞわっとする孤独感が心地良い…!

大洪水後、人類が滅亡したあとの廃墟の街が舞台ということもあり、作品全体の雰囲気は非常に淋しい。生きた人間や動物はほとんど出て来ず、精神世界のようなおぼつかない街の風景。

作品自体、「生まれる前の雛が見る夢」という設定があるように、夢の中のような心許なさが常にあります。

あまりにも喪失感の伴う世界観に、鳥肌が立つような孤独感を味わうことができます。この孤独感は嫌なものではなく、むしろ心地良く感じるほど。

こんな経験をしたことはないでしょうか。たまたま深夜に目が覚めてしまい、窓の外はしんと静まっている。あまりにも静かなので、この世界で起きているのは自分だけなのではないかと錯覚してしまうような夜。淋しさもありながら、その孤独感が妙に心地良く胸を躍らせる。…そんな類のぞわぞわと鳥肌が立つ孤独感が非常にクセになる作品です。

一人になりたい夜こそ、じっくり観てほしい作品です。

見どころ

次に、『天使のたまご』の見どころを深掘りしていきましょう。

美しい廃墟の街と孤独な少女

先述したように、この作品の大きな見どころは少女が暮らす廃墟の街。武器を持った少年が来るまで、その街に少女以外の人影はまったくありません。世紀末のような退廃的なその街は、まるで夢の中のような不思議で不気味な世界観です。

この作品の独特な不気味さをいっそう際立てているのは、卵を抱える孤独な少女の存在でしょう。この少女の不健康そうな風貌と印象的な白髪、何を考えているのか分からない表情などが視聴者に不安感を掻き立てます。

イラストレーターの天野喜孝さんが原案、キャラクターデザインと担当しているということもあり、現実離れしたキャラクターとして完成されています。

一度観たら忘れられない少女の風貌や所作、そしてそんな少女が溶け込む不気味な廃墟の街。すべてが絶妙にマッチして唯一無二の作品世界を構築しています。とにかくとても芸術的な作品なんですね。

張り巡らされたいくつかのメタファー

この作品には、数々のメタファーが登場します。

例えば「魚」や「鳥」など。意味深なモチーフたちは、聖書におけるシンボルのメタファーと言われており、「魚」は「言葉」、「鳥」は「命」を意味するといわれています。

このように、登場する物事や動物の意味を考えながら観ることも、楽しめる要素ではないかと思います。

『天使のたまご』を観た人の感想

ここでは、実際に『天使のたまご』を観た人の特徴をご紹介します。

  • 表現に振り切ったアニメアート作品
  • どこを切っても絵になる美しさ
  • 根津甚八が良い声している
  • メタフォリカルで難解だった
  • 天野先生のデザイン最高
  • 幻想的で退廃的な雰囲気がすごく好き
  • レイアウトと音楽が美しく謎の中毒性がある
  • 含みと緊張感が良かった
  • 情報量が少なく、見る側の基礎知識が必要な作品だと感じた

映像的なアートアニメとしての美しさを評価される一方、ストーリー自体の難解さに苦しんだ人もいるという印象です。

『天使のたまご』が楽しめる人の特徴

『天使のたまご』が楽しめる人の主な特徴に、以下を挙げさせていただきました。

  • 作品の世界の没入したい
  • 静かな作品を観たい
  • 孤独な気分を味わいたい
  • 旧約聖書やノアの方舟に興味がある
  • 押井守作品が好き
  • 詩的な内容の作品が好き
  • 寝る前に作品を観たい
  • 一人でゆっくり作品を観たい
  • 少し不気味な作品が好き

『天使のたまご』が好きな人のおすすめのアニメ・映画

ここでは、『天使のたまご』が好きな人におすすめのアニメや映画をご紹介させていただきます。ぜひ併せてチェックしてみてください。

少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録

全寮制の名門、鳳学園に転校してきた天上ウテナ。幼い頃のある事件をきっかけに、志高く生きる決心をしたウテナは、その決意から日常的に男装するようになった。

ウテナは学園内で「薔薇の花嫁」と呼ばれている謎めいた美少女、姫宮アンシーと出会ったことをきっかけに、「世界を革命する力」を奪い合う決闘ゲームに巻き込まれてしまう…。

おすすめポイント

こちらの作品の監督である幾原邦彦さんは、押井守監督作品から多くの影響を受けており、『天使のたまご』からもインスピレーションを受けたと言われています。

映像表現で繰り返し語られるメタファーや意味深な描写、少しシュールな演出や独特な台詞回しなど、押井作品に通ずる魅力があるので、ぜひご覧ください。

御先祖様万々歳

1989年5月〜1990年1月にかけリリースされた、スタジオぴえろ制作のOVA作品。

原作・脚本・監督に押井守。舞台演劇然とした演出をアニメに持ち込んだ斬新な演出が特徴。登場人物が過剰に饒舌な独特な台詞を話す。「立喰いそば」「犬」「大洗海水浴場」といった、ほかの押井作品でも見られる題材・ネタも随所に含まれる作品です。

おすすめポイント

『天使のたまご』と同様の押井守監督作品であるOVA作品です。

こちらは『天使のたまご』と打って変わってどんちゃん騒ぎのコミカル仕立てですが、少し不気味な作品世界や度々登場するメタファーの使い方などは、『天使のたまご』に通づる面白さがあります。

前衛的で少々カルト的、一味違った独特なアニメを観たいという方は必見の作品です。

機動警察パトレイバー2 the Movie

押井守監督が手がけた人気アニメ『機動警察パトレイバー』の劇場版第2作。

2002年、突如横浜ベイブリッジが爆破される。自衛隊機によるものと報道されるが、該当機体は存在しなかった。その後同様の不審な事件が都内で相次ぎ、警察と自衛隊の対立が深刻化していく。政府は実働部隊を出動させ、東京は事実上「戦争状態」に置かれてしまう。警視庁特車二課第2小隊隊長の後藤らは、東京に戦争を再現させたテロリストの正体、そしてその真相を追っていくが…。

竹中直人、根津甚八らが声優として出演することで話題に。2020年にはシリーズ誕生30周年突破を記念し、劇場版1作目が4DX上映。2021年には『機動警察パトレイバー2 the Movie 4DX』と題し本作も体感型上映システム「4DX」で公開。

おすすめポイント

こちらも押井守監督の劇場版アニメです。『天使のたまご』の少年役でナレーションを務めた根津甚八がこちらにも声優として出演しています。

個人的に、『機動警察パトレイバー2 the Movie』の、どこから静謐な大人向けアニメーションの雰囲気は『天使のたまご』が好きな人にも楽しめるものとなっているように感じます。この作品にもメタファーのように何度も繰り返し「鳥」が登場し、意味深な演出が健在です。

観た後にどこか淋しい喪失感が残る点も、『天使のたまご』に通づるものがあります。一人でゆっくり観るのがおすすめのアニメ映画です。ぜひ気になった方はチェックしてみてください。

まとめ

以上、『天使のたまご』の見どころや感想をお伝えしました。

これまで観たアニメ作品の中でも一際異質な本作。私はいつも、人間関係に疲れたとき、一人になりたいときに、ひっそり夜中に観ています。どこまでも孤独になることができ、登場人物に感情移入して没入すればするほど「世界には自分しかいないのでは」という気分になれます。その鳥肌が立つような孤独感が、非常に気持ち良く陶酔できるのです。

これまで感じたことのない体験ができるであろう前衛的アニメ『天使のたまご』、ぜひご覧いただけたらと思います。

こちらのバンダイナムコ公式チャンネル内の「うのちゃんねる」では、『天使のたまご』の裏話を押井守監督から聞くことができます。気になる方は、チェックしてみてください。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

この記事を書いた人

TANAKA

TANAKA