「失笑」の正しい使い方は?【呆れて笑わなくわけではない!】

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だれかが妙な発言をしたときに「思わず失笑してしまった」と言ったことはありませんか?
この「失笑」という言葉、実はかなり多くの人が誤用している言葉。そこで、今回は「失笑」の正しい使い方について紹介しましょう。

「失笑」はどういう意味?


まず、「失笑」とはどういう意味なのか見てみましょう。

しっ‐しょう〔‐セウ〕【失笑】 の解説
[名](スル)思わず笑い出してしまうこと。おかしさのあまり噴き出すこと。「場違いな発言に―する」

出典:goo辞書

この意味を聞いて、違和感をおぼえたでしょうか?
というのも、「失笑」という言葉は使う人によって2つの意味で認識が分かれたのです。

文化庁が発表した平成23年度「※国語に関する世論調査」によると、先ほど紹介した本来の意味「こらえ切れず吹き出して笑う」で使う人が27.7パーセント。それに対して、本来の意味ではない「笑いも出ないくらいあきれる」で使っていう人が60.4パーセント。なんと6割の人が誤用していたというデータもあるほでです。

※「国語に関する世論調査」とは、文化庁が1995年(平成7年)から行なっている国の正式な世論調査。漢字や慣用句・敬語・外来語などの理解度や関心度、また会話や手紙などの言語によるコミュニケーションの現状などの日本語に対する人々の意識を調査し、国語施策の参考にしている。

「失笑」の「失」の意味は?

「失笑」という漢字からイメージすると、どうしても「笑いが消えて無くなる」と考えてしまいがち。しかし、本来の意味はまったく逆です。

これは、「失」の字の意味を勘違いしている人が多いからでしょう。この「失笑」に使われている「失」は、「失う・無くなる」という意味ではありません。

たとえば、「失言」という言葉を思い浮かべると分かりやすいはず。「失言」とは、「言葉を失って黙り込む」という意味ではなく、「言ってはいけないことを思わず言ってしまった」という意味です。

しつ‐げん【失言】 の解説
[名](スル)言うべきではないことを、うっかり言ってしまうこと。また、その言葉。「―を取り消す」「公の席で―する」
出典:goo辞書

「失言」と同じように、「失笑」も「内に押さえ込んでおくべきものが外に出てしまった」という意味の「失」が使われていることになります。

ちなみに辞書で「失」を引くと、「失言」「失笑」で使われている意味があることが分かります。

しつ【失】
[音]シツ(漢) [訓]うしなう うせる

[学習漢字]4年

1 なくす。うしなう。うせる。「失業・失点・失望・失恋/遺失・消失・焼失・喪失・損失・得失・紛失・忘失・滅失・流失」

2 うっかり出してしまう。「失禁・失言・失笑」

3 あやまち。しくじり。「失策・失敗/過失」

出典:goo辞書

1の意味の場合に使われる漢字と、2の意味の場合に使われる漢字が異なることが分かります。「失」には「失う・なくなる」という意味が当然ありますが、そのイメージがかなり強いため、多くの人に誤用されているのでしょう。

しかし、2の「うっかり出てしまう」という意味で「失」が使われている漢字の言葉も日常的に使用してるもの。そのため、「失笑」の「失」は「失言」などと同様の使い方をすると考えてみてください。

「失笑」の正しい使用例


では、「笑ってはいけないところで思わず笑ってしまった」という正しい意味で「失笑」を使っている例をみてみましょう。日本の文豪、芥川龍之介の作品から引用します。

 先生がそこを訳読し始めると,再び自分たちの間には,そこここから失笑の声が起おこり始めた。と云いうのは,あれほど発音の妙を極めた先生も,いざ翻訳をするとなると,ほとんど日本人とは思われないくらい,日本語の数を知っていない。
(芥川龍之介  「毛利先生」 大正8年)

このように、先生のミスを笑うというのは本来ならばこらえるべきこと。しかし、笑ってはいけないところで思わず笑ってしまったため、この場合は「失笑の声が起こった」と表現されています。

「失笑」を使った慣用句と誤用


「失笑」を使った慣用句はいくつかあります。たとえば、「失笑を買う」。これは「愚かな行動をしたことで笑われる」という意味です。そのため、本来の「失笑」を使った意味合いがあります。

「スピーチで声が裏がってしまい、失笑を買ってしまった。」

ただし、これは誤用されやすい使い方でもあります。この場合の意味は「こらえるべきところなのに笑いが起こった」という「失笑」の本来の意味で使用されていますが、「愚かな言動に対して笑われた」ということを、「バカにした笑い」と勘違いして捉えている人も多いのです。
そのため、「あざ笑う」や「冷笑」「からかう」「小馬鹿にする」などと誤用する人も見受けられるため注意してください。

「失笑」の例文


では最後に、「失笑」を使った例文を見てみましょう。正しい意味での使い方をチェックして、どういう場合に使われる言葉なのか改めて確認してください。

  • 「体育教師の怒った顔が独特でクラスから失笑が漏れた」
  • 「映画のクライマックスシーンでおならをしてしまい、隣に座っていた彼女が失笑していた」
  • 「ライブ中にステージをふざけて走り回っていたヴォーカルが派手に転んで、観客から失笑を買っていた」

「失笑」は笑いがなくなるのではなく、むしろ起こってはいけないところで笑いが発生することだと頭に入れましょう。

この記事を書いた人

MIYAMOTO

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