普段から使っている漢字や、日常的に使っている言葉には誤用しやすいものが数多くあります。今回紹介する誤用しやすい言葉は「破天荒」。あまり自分で使ったことはないという人でも、見聞きしたことが多いのではないでしょうか。
なかなかインパクトのある字面をしている破天荒ですが、テレビのバラエティ番組などで無茶苦茶な言動をする芸人さんに対して「あの人は破天荒な人だ」といった使い方がされていることがあります。使われている漢字や、テレビなどで使われているイメージから「破天荒」の言葉の意味を誤っている人が多いそうです。
では、実際の「破天荒」の意味は何なのでしょうか?
目次
「破天荒」の正しい意味
まずは「破天荒」が辞書でどのように記載されているのか見てみましょう。
は‐てんこう〔‐テンクワウ〕【破天荒】 の解説
[名・形動]前人のなしえなかったことを初めてすること。また、そのさま。前代未聞。未曽有 (みぞう) 。「―の試み」「―な大事業」出典:goo辞書
かなり違和感を抱いた方も多いはず。というのも、先ほど紹介したように、「破天荒」は荒々しい人物や豪快さを表す言葉だと思っている人が多いという調査データがあるほどなのです。
文化庁が発表した平成20年度の「※国語に関する世論調査」では、どれほど多くの人が「破天荒」を誤用していたか顕著に分かるデータがあります。「『彼の人生は破天荒だった』という文章の正しい意味を答えよ」という問いに対して、本来の意味である「だれも成し得なかったことをすること」と答えた人は、わずは16.9%だったそうです。それに対して、誤用とされている「豪快で大胆な様子」という意味だと思った人が、なんと64.2%でした。
このように、破天荒を本来の意味で理解している人がとても少なく、また誤用がかなり多いということがデータからも分かります。
※「国語に関する世論調査」とは、文化庁が1995年(平成7年)から行なっている国の正式な世論調査。漢字や慣用句・敬語・外来語などの理解度や関心度、また会話や手紙などの言語によるコミュニケーションの現状などの日本語に対する人々の意識を調査し、国語施策の参考にしている。
「破天荒」の由来
「破天荒」は使われている文字のイメージから、どうしても誤用されることが多くなった言葉のようです。では、どうしてこれほどまで誤用されるような荒々しい文字を使われるようになったのでしょうか。
「破天荒」の言葉の由来は古く、中国の故事にその答えがあるのだとか。宋の時代の説話集『北夢瑣言』に記されている話の中に、唐の時代の難関試験である官吏登用試験の科挙にまつわるエピソードが紹介されています。科挙はあまりに難関なため、荊州という地域ではなんと100年以上も合格者が1人も現れなかったそうです。そのため、荊州は「未開の地」という意味の「天荒」と呼ばれていました。
しかしこの未開の地に、初めての科挙合格者が現れます。劉蛻という人物が快挙を讃えられて、彼は人々から「天荒を破った」といわれました。
これが「破天荒」、つまり「いままでだれも成し遂げられなかったことを実現すること」を意味する言葉の起源なのです。
文字のイメージだけではなく、言葉の由来のなったエピソードや、「天荒」という言葉の意味を知っていれば、誤用することも減っていきそうですね。
出典:文化庁月報
「破天荒」の類語
本来の意味とされる「破天荒」の類語を並べてみると、「豪快さ」といった意味とは異なることがよく分かります。下記が本来の意味の「破天荒」の類語です。
前人未到・前代未聞・未曾有・空前絶後・前例がない
このように、「いままでにあり得なかったもの」という意味の言葉が並びます。そして、「だれも成し遂げられなかったことを達成する」という意味を言い表す場合、破天荒よりこれらの類語の方がしっくりのではないでしょうか。普段聞き慣れている言葉がある分、わざわざ「破天荒」を使用する機会が少ないというのも、「破天荒」が誤用されやすい理由と考えられます。
ちなみに、「破天荒」の誤用とされる意味の類語は、以下のようなものがあります。
型破り・傾奇者・常識はずれ・浮世離れ
これらはまさに「破天荒」の誤用されている意味を言い表す言葉です。
そのため、「破天荒」を誤用していた方はこれらの言葉を代わりに使うようにしてみてください。
「破天荒」の例文
では最後に、「破天荒」の本来の意味を用いた例文を確認してみましょう。
- 彼は日本海を平泳ぎで横断するという破天荒な記録をつくってしまった。
- 彼女は独学で難関国立大学に現役合格したとうのだから、本当に破天荒だ。
- 50年間破られていなかった世界記録を破るなんて、破天荒にも程がある。
- 無学な状態から年収1000万円を目指す彼の破天荒な試みに期待が膨らむよ。
- 誰もが期待していた破天荒な挑戦に成功して世界中が大騒ぎだ。
このように、いままでに例がないことを成し遂げるといった意味が本来の「破天荒」の使い方です。これらを参考にして、正しい使い方で「破天荒」を使ってみてくださいね。