「敷居が高い」の使い方は?【ハードルが高いわけではない?】

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みなさんが普段生活していて、あまり馴染みのないものを目にした時、ふと出てくる言葉はなんですか?
たとえば、美術館に行って難解な現代アートを鑑賞したとしましょう。「現代アートは自分には敷居が高い」と言った場合、これは果たして正しいと思いますか?

この「敷居が高い」という言葉、じつは誤用が多い言葉としてよく挙げられるのです。聞いたことはあるけれど、正しい意味を理解しているか自信がないという方は、この記事を読んで理解を深めてみてください。

「敷居が高い」の意味は?

では、「敷居が高い」というのはどういう意味なのでしょうか?

敷居(しきい)が高(たか)・い の解説
不義理や面目のないことがあって、その人の家へ行きにくい。

出典:goo辞書

紹介された解説を見て、あまりピンとこなかった方も多いのでは?
というのも、「敷居が高い」という言葉の意味を、「ハードルが高い」といった意味で使っている方が多いからです。

「※国語に関する世論調査」によると、「本来の意味」と「本来の意味ではない」、それぞれの「敷居が高い」についてリサーチしたところ、次のような結果が出たとのこと。


平成20年度調査令和元年度調査
相手に不義理などをしてしまい、行きにくい
(本来の意味とされる)
42.1パーセント45.6パーセント

高級すぎたり、上品すぎたりして、入りにくい
(本来の意味ではない)
45.6パーセント56.4パーセント

出典:goo辞書

本来の意味で使っている人よりも、本来の意味とは異なる言葉として使っている人の方が多いという調査結果が出ています。

さらに、この数値は近年になればなるほど、本来の意味を理解している人が減り、誤用の意味だと思っている人が増えています。

これは年代別に見るとさらに違いがハッキリしていて、50歳以上では5割以上が本来の意味で使っていて、16歳から30代はなんと7割以上が誤用とされる意味で理解していたのだとか。

出典:文化庁月報

※「国語に関する世論調査」とは、文化庁が1995年(平成7年)から行なっている国の正式な世論調査。漢字や慣用句・敬語・外来語などの理解度や関心度、また会話や手紙などの言語によるコミュニケーションの現状などの日本語に対する人々の意識を調査し、国語施策の参考にしている。

「敷居が高い」の「敷居」とは?

ではこの「敷居」とは、どんな意味があるのでしょうか。

しき‐い〔‐ゐ〕【敷居/×閾】 の解説
1 門の内と外との仕切りとして敷く横木。また、部屋の境に敷く、引き戸・障子・ふすまなどを開けたてするための溝やレールのついた横木。

2 屋内や地上に敷いて座るござ・むしろの類。〈名義抄〉

出典:goo辞書

この1にあたる意味、つまり出入り口をイメージするといいでしょう。
すなわち、本来の意味である「不義理や面目のないことがあって、その人の家へ行きにくい。」というのは、「なにか悪いことをして負い目を感じたため、その人の家の入り口をまたぐのも気が引ける」といった意味合いがあります。


ただ単にハードルを高く感じたり、「自分には分相応じゃないないから行きにくい」という意味とは異なるのです。

そう考えると、「現代アートは敷居が高い」というのも違和感がありますよね。同様に、高級店へ入りづらい場合にも、「敷居が高い」という言葉は本来なら適していないのです。

辞書によって「敷居が高い」の解釈は異なる

とはいえ、「敷居が高い」を「ハードルが高い、高級すぎて入りづらい」といった意味で使うことは、近年では完全な誤りとはされていないようです。
それは、国語辞典での「敷居が高い」の扱い方にも現れています。


たとえば、『三省堂国語辞典第7版』では、本来の意味だけでなく、誤用とされる「ハードルが高い、入りづらい」といった意味も載せているようです。しかし、『明鏡国語辞典第2版』では、「ハードルが高い、入りづらい」といった使い方は誤用だとハッキリと説明されている模様。

これは、特に若年層が誤用とされる使い方をする人が増えてきたこともあり、新しい意味として「ハードルが高い、入りづらい」といった意味を付加する動きがあるのではないでしょうか。


そのため、誤用とされている意味でも、日常会話などであれば使用しても問題はなさそうです。ただし、戦前の記事では「敷居が高い」を本来の意味以外で使用した例が見られなかったようなので、特に高齢者と話す場合には誤用とされる使い方は控えた方がいいでしょう。

出典:NHK文化放送研究所

「敷居が低い」は正しい言葉?

では、「敷居が高い」の対義語だと考えられる「敷居が低い」はどうでしょうか?
これは、『三省堂国語辞典第7版』が「敷居が高い」の対義語として紹介しているだけで、ほかの辞書には載っていないとのこと。

ちなみに、1970年代に入ってから新聞で使用されているデータがあるため、比較的新しくつくられた言葉のようです。

ありえない言葉というわけではないようですが、相手によっては「そんな言葉は存在しない!」「間違った使い方だ!」などと快く思われないかもしれないので、注意が必要かもしれません。
若年層との会話であれば通用しやすいでしょうが、やはり高齢者と話す際は使用するのを控えた方がいいでしょう。

出典:NHK文化放送研究所

「敷居が高い」の例文

では実際に「敷居が高い」を使用した例文を見ていきましょう。
本来の意味と、近年の意味(本来ではない意味)を見比べて、言葉の使い方がどのように異なるか確認してみてください。

敷居が高い(本来の意味)

  • 「先輩に借金をしたままだから、家に行くのは敷居が高い」
  • 「祖母には10年以上連絡をしていないから、いまさら尋ねるのは敷居が高い」
  • 「以前の商談でミスをしてしまった取引先に行くのは敷居が高い」

敷居が高い(本来の意味ではない)

  • 「歌舞伎を見るのは敷居が高い」
  • 「オシャレに疎いから、表参道へ行くのは敷居が高い」
  • 「高級レストランはどうにも苦手で敷居が高い」

完全な誤用というわけではありませんが、これら2つの意味を理解した上で、時と場合に応じて「敷居が高い」を使ってみてください。

この記事を書いた人

MIYAMOTO

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