卑怯なことをした人に対して、「あの人は姑息で嫌な奴だ」という表現をしたことはありませんか?
じつはこの姑息の使い方は誤用! 姑息という言葉は誤用されやすく、多くの人が意味を誤っているとされています。
今回はそんな姑息の正しい使い方について紹介しましょう。
目次
「姑息」の正しい意味
ではまず、姑息の正しい意味から確認してみましょう。
こ‐そく【×姑息】 の解説
[名・形動]《「姑」はしばらく、「息」は休むの意から》一時の間に合わせにすること。また、そのさま。一時のがれ。その場しのぎ。「―な手段をとる」「因循―」
引用:goo辞書
「卑怯だ」という意味で誤用されがちな「姑息」。しかし、上記の通り正しい意味はまったく異なるものです。上記の意味がピンとくる方はかなり少ないのでは?
文化庁が平成22年度に「※国語に関する世論調査」では、正しい意味で姑息を使った人は全体のわずか15%しかいなかったそうです。それに対して、誤用である「卑怯な」の意味で使う人はなんと70.9%。データからもどれだけ誤用率が高いか分かります。
※「国語に関する世論調査」とは、文化庁が1995年(平成7年)から行なっている国の正式な世論調査。漢字や慣用句・敬語・外来語などの理解度や関心度、また会話や手紙などの言語によるコミュニケーションの現状などの日本語に対する人々の意識を調査し、国語施策の参考にしている。
「姑息」の由来
なぜ姑息が「一時の間に合わせにすること」という意味を表すのでしょうか。姑息の歴史は古く、中国の前漢時代の儒教経典「礼記」の故事から。あの孔子の門下生、曽子という人の言葉が由来になっているそうです。
病気で寝込みがちだった曽子は、自分の寝床に上等なすのこを敷いていました。
しかし、お付きの童子という人に「身分に合わない上等なものでは?」と指摘され、曽子は息子の曽元にすのこを取り替えるように命じました。曽元は重い病に苦しんでいた曽子の体調を考慮して、「明朝、具合が良くなったら替えましょう」と提案します。これに対して、曽子はこう答えました。
「君子の人を愛するや徳を以てす。細人の人を愛するや姑息を以てす。」(君子たる者は大義を損なわないように人を愛するが,度量の狭い者はその場をしのぐだけのやり方で人を愛するのだ。)
出典:文化庁月報
つまり、曽子は一時しのぎの配慮で長生きするよりも、正しいことをして死ぬ方がいいと答えたのです。そして、その場にいた者たちは曽子を抱え上げてすのこを取り替えましたが、曽子はその後間もなく息を引き取ったといいます。
なぜ「姑息」の誤用の意味が生まれた?
語源を見てみると、「卑怯」という言葉とは無縁なエピソードが由来になっています。
しかし、下記3つの理由で誤用されがちだと考えられます。
「一時しのぎ」という意味からの誤用
「一時の間に合わせにする」という意味は、言い換えれば「一時しのぎ」ということになります。なにか事件や問題が起こったときに、一時しのぎをするのは一つの手段ですが、見方を変えれば「正面から問題に取り組んでいない」ということにもなります。このような意味から、「姑息」が卑怯という意味を表すようになったとも考えられるのです。
似た言葉との混同
似たような語感の「小癪」と混同する人が多いというのも原因として考えられます。
こ‐しゃく【小×癪】 の解説
[名・形動]言動などが、どことなく憎らしく、腹立たしくなるような気持ちを与えること。また、そのさま。「―な言いぐさ」「―なまねをする」
出典:goo辞書
「姑息」を使った文章からの勘違い
「姑息」を使用した文章を見ると、勘違いしやすいのではないかとも考えられます。
たとえば、下記の文章は「一時しのぎ」「卑怯」のどちらの意味でも通じるのです。
- 「とっさに嘘をつくなんて姑息な奴だ」
- 「ピンチを切り抜けるために姑息な手段を使った」
これらは一見すると、「卑怯な真似をした」というような印象を持ちやすいでしょう。
このように「姑息」を使った文章は「卑怯だ」という意味で捉えられがちなのが、誤用される大きな原因となっているのでしょう。
「姑息」の類語
では、本来の姑息の意味を今一度理解するために、類語を確認してみましょう。
その場しのぎ・応急処置・間に合わせ・急ごしらえ・便宜的・暫定的
このように、「一時的なもの」というのが姑息の本来の意味です。
正しい意味が何なのか迷った場合は、姑息の文字から意味を類推するのがいいでしょう。
(「姑」はしばらく、「息」は休むの意から)
「姑息」を使った例文や言葉
最後に、「姑息」の正しい意味を使った例文や言葉を見ていきましょう。
- 状況を改善するために、まずは姑息な手段をとろう。
- 姑息だが眠気覚ましにコーヒーを飲んでみる。
- 一夜漬けのテスト勉強は姑息だが、なにもしないよりはマシだ。
姑息的療法
1 病気の原因に対してではなく、その時の症状を軽減するために行われる治療法。痛みに鎮痛剤を与えるなど。姑息 (こそく) 的療法。⇔原因療法。
出典:goo辞書
「因循姑息」(いんじゅんこそく)
古い習慣ややり方にとらわれて改めようとせず、その場しのぎに終始するさま。▽「因循」は因より循したがう意から、しきたりにとらわれて改めようとしないこと。「姑息」は姑しばらく息をつく意から、一時の間に合わせのこと。
出典:goo辞書
「姑息」は卑怯という意味ではなく、「一時しのぎ」という意味を表現したいときに使いましょう。